第15話

お前が死にたいと言った時
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2023/05/02 09:05 更新
・CPなし
生きて欲しいだとか、誰かを悲しませるだとか。そんなもんクソくらえだと思う。
自分が生きているのは自分で『生きる』という道を選んだからであって、誰かのためじゃない。
『生きて欲しい』と言われて「ありがとう」と言えるのは、本当に心から死にたいと思っていないやつだ。死ぬ直前のこの世のものとは思えないほどの苦痛で「まだ生きたい」と言うやつとか。

最近の『死にたい』の理由は様々だ。人付き合いが上手くいかないから死にたい。勉強についていけないから死にたい。何もかも上手くいかないから死にたい。その他諸々。一昔前の人間が聞けば「甘ったれたことを」と言うだろうが、そんな言葉を今時吐こうものなら「これだから古い人間は」とため息を吐かれて終わりだ。

自分は別にどんな『死にたい』も自分で出した結論なんだから良いと思う。気持ちの強さは置いておいて。生き終えた後のことなんて死んだ人間にしか分からないこと、今この瞬間にも息をして生きているキリンにはひとっつも分からないし、知りたいとも思わない。

死にたいやつに死ねば?と言い、生きたいやつには生きればいいじゃんと言う。一番無難で一番救われるだろう。だって、どんな選択をしても肯定してもらえるんだから。無責任だと言うか。そんなの酷いと言うか。知ったこっちゃねえと返したいと思う。

人の一言で変わるほど自分がないんだなと思うだけだから。

違うって?じゃあなんで「あなたのおかげで生きたいと思えたよ」とか言っておいてまた死にたいって言うんだって話だ。生きたいって思えたんじゃねえのか。嘘だったのか。…全部周りに流されてるからだろ。他人の『生きて欲しい』で生きようと思い、他人の行動で『死にたい』と思う。そこに『自分がどうしたいか』はない。…別に責めてるわけじゃないが。

死にたいアピールも私病んでますも好きにしたらいい。本当にそう思ってるのかは別だが、表現の自由というものがあるから。

そもそもの話。誰が生きようが死のうがその人の勝手で、キリンはそこに人が介入するべきでは無いと思うのだ。大人になればなるほど『自分』で考えることを強要してくるくせに、そういう時ばかり思考を左右しようとするなんて何様だ。他人はいつも、救われることを許さない。

だから、だから、だから。

自分だけは認めてやるのだ。


哀れで、救われたいともがき、悲しいあいつを。

「…死にたきゃ死ねよ。……お前が本当にそうしたいなら、」



…人の死に、他人が介入するべきではない。全部お前の判断に任せる。

……──────生きて欲しいなんて笑うだろうから死んでも言わない。でも、縋るような視線を送ってしまうことだけは許して欲しい。生死すらもコントロールされてしまう世界で唯一、自由を求めるお前を認められる存在になりたいから。

「…止めないんすね」

驚いたような顔。…でも、不満気な様子はない。キリンの言葉で揺らがないほど決意は堅い。

「お前が考えて決めたことになんで俺が口出しするんだよ」
「…それもそうっすね」

思考放棄。空を仰ぐように顔を空に向ける。腰をかけている場所の不安定さに手汗を握った。

「……止めて欲しかったのか。…お前も」

お前も、は小さくて聞こえなかったようで特に突っかかっては来なかった。代わりに笑顔で「まさか」と答える。

「俺は自分で考えて決めたんすから。誰に何を言われようが揺らがないっすよ」
「…そうか」

気を抜けば余計な一言を言ってしまいそうで唇を噛む。揺らがないとはっきり言ったハックの重荷になりたくない。〆の言葉を『ごめんなさい』にして欲しくない。出来れば『ありがとう』だとか、そんな綺麗な言葉がいいと願うのは自分勝手だろうか。…勝手か。

「キリンさんとタブーさんといる時は楽しいんすよ。でも、楽しい時間を過ごした後に襲ってくる猛烈な寂しさにいつも悩まされてるんすよ」

なんだ、それ。初めて聞いた。

「寂しさ…もあるし……強いて言うなら」

罪悪感。

ざわざわと胸を騒がせるその六文字を声になることが出来なかった吐息が繰り返す。何に対して。どうしてお前が。聞きたいことはあるが、同じように声にならない。

「俺が幸せになっちゃいけないって、これは俺が享受していいものじゃないって…俺の中の誰かがそう言ってるんすよ」
「…幸せになっちゃいけないなんて、誰が決めた」

口をついて出た。ハックは表情をぴくりともさせずにキリンからやっと出た声に耳を澄ませる。

「自分のことは自分で決めろ、誰かが決めたキマリゴト 、 、 、 、 、に沿うんじゃねえよ。お前が幸せになろうが不幸になろうが、そうするって決めたのは常にお前であれよ」

そうじゃなきゃ、きっと後悔する。人の言いなりになって、思考を放棄することは確かに楽な道かもしれない。でも、いつか絶対に後悔する道でもある。それなら、苦しくても自分で考え抜く道の方が絶対にいい。

「…余計なお世話っすね」

そんな言葉が聞こえてきて、しまったと思った。……結局、キリンも自分の考えを押し付けた。

「…ご」
「本音が聞けて良かった」

柔らかい声色。顔を上げると、ハックは手すりから降りていた───────────屋上の向こう側へと。

「キリンさん、俺に……俺たちに本音で話してくれたこと、ないでしょ」

小さな悲しみが感じられる笑顔でハックは言う。違うと否定したいのに、口はぱくぱくと空気を吐くのみだ。

「だから…最後でも、本音が聞けて良かった」

最後は、本物の──────────心の底からの笑顔だった。

「ありがとう」

耳に優しい響きを残して。

「さようなら」

新たな世界───誰もいない、孤独の世界───に旅立つために、ハックは命綱から両足を離す。瞬間、意思もクソもなく自分の足が床を蹴る。

非日常に脳がモーションをかけていく……スローモーションを。
舞うように墜ちていくハックのバックミュージックは、ガシャンッ!というキリンが柵に突進する音。

「ハック!!」

どれだけ伸ばそうともう触れることが叶わない腕を懸命に伸ばす。無意味だとしても。

そんな顔するな。幸せそうな顔するな。なんで
なんで、

なんで俺が泣いてるんだよ。

「ハック!!!」

何度も何度も名前を呼んだ。小さくなって、やがて──────地面に叩きつけられて動かなくなったハックを見ても尚。

「ハック…」

柵に掴まったまま崩れ落ちた。これは夢だと必死に修正にかかる脳が視界をグラグラと揺らす。

……泣くな。悲しむな。これはハックが………決めた道なんだ。

キリンだけでも認めてやらないで、誰がハックを認めるんだ。

立て。立ち上がれ。ハックの選択が間違いじゃなかったと伝えるために。

ふらふらと視線が揺れる中、キリンはスマホを手に取った。

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