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第16話

(8)end.
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2025/09/15 03:34 更新














ねぇ、あなたの下の名前。君が居なくなってからも、
世界はなんでもないように回っているよ。




もう居ないはずの君の部屋に、
窓から柔らかい光が差し込んで。

静かだけれど、君の気配を孕んでいる。
空気を吸うと、柔らかい匂いが俺の胸を静かに刺した。

使われていないテーブルも、かかったままの制服も、
君の温かみを残してこちらを覗いている。



コンコンっと音がして、扉が開いた。
あなたの名字さんが手に何かを持って入ってくる。




「…これ、あなたの下の名前が貴方にって。」



手渡されたのは、マフラーだった。
青色に黒や灰色の線が入ったチェックのマフラー。
俺が渡したマフラーと、どこか似ていた。



「…あなたの下の名前、マフラー持ってなかったから。
多分、貴方のマフラーを真似て作ったんだろうね。」



渡したやつしか、持ってなかったのかよ。
あんなに似合っていたのに。
体だって悪くて、暖かくしないといけなかったのに。

「なんだよ、それ…」


何故か、俺は笑っていた。

「…あと、引き出しの中を見て欲しいって。」

あなたの名字さんはそう言って部屋を出ていった。

引き出しの中を見ると、
手紙がひとつ。

手に取って、中を開いた。







拳󠄁へ




貴方がこれを読む頃には、
私はもう拳󠄁と会うことは無いでしょう。

私はもう、外を歩くことすらできません。
だから、もう後悔したくないから。
言いたいことを、全部ここに残そうと思います。


まずは、こんな私と一緒にいてくれてありがとう。
どんなに私が冷たくしても、
貴方は私のそばを離れることはなかった。

本当は、凄く嬉しいよ。


貴方が作ってくれる思い出は、
私の心の中で小さく呼吸をし続けています。


1年前、桜の木の下でした約束。
あの時は、ものすごく幸せで。
拳󠄁が笑っていたから。私も、自然と笑ってた。


夏祭り、私のせいで行けなくなって、
病室で射的屋さんをしてくれた。
拳󠄁は祭りに行けなかったのに、笑ってたよね。
拳󠄁ってやっぱりちょっとお馬鹿。でも、ありがとう。


私が泣いた時。辛いこと全部言った時。
拳󠄁は、そっかそっかって頭撫でてくれて嬉しかった。

羨ましいって思うのも、
生きたくないって思うのも肯定してくれた。
救われたんだよ、拳󠄁に。



拳󠄁は私に、たくさんのことをしてくれた。
でも、笑えなかった。それでも拳は、諦めなかった。
ずっと隣にいてくれた。



ねぇ、拳󠄁。
友達にこんな事言うの照れくさいけど、大好きだよ。


貴方がそばに居てくれた日々。
貴方が病院に来てくれた日々。
その全てを私は、抱き締めています。


辛い出来事は、ここに置いていって。
貴方が時たまに私を思い出してくれたら。
私は貴方のそばに帰って来れるから。

本当にありがとう。そして、さようなら。
幸せになってね。君の笑顔は、花よりも綺麗だよ。




あなたの下の名前
文字が揺れて、インクが滲んだ。

君の最期も、葬式も、涙は出なかった。
人は、本当に辛い時は泣けないらしい。

そんなこと、あるわけない。
だって今。こんなにも辛い。

あなたの下の名前を失ったこと。
俺の力で笑わせることが出来なかったこと。
そして、少しばかりの失恋。

また文字を目でなぞっては
一つ一つが胸に深く突き刺さる。

何かに触れていたくて、
机の上に置いたマフラーを握った。
あるはずのない君の温もりを感じたような気がして。


言えなかった本音を。
届くはずのないつぶやきを。

風に託すのは、罪だろうか。

口から出かけた言葉を、喉に詰まらせては。
胸の中に溶かしていた。

笑って欲しかった。
楽しいって、その一言が欲しかった。












救いたかった。























いや。












縋ってたんだ。




俺が君の生きる意味だったように、
君も俺の生きる意味だった。




それなら、全部背負うよ。

君が見れなかった景色を。
君がしたかった経験を。

俺が、全部背負っていくよ。




忘れることなんてない。











だから、、






ずっと、隣にいて。


























暖かい空気が優しく頬を撫でる。

花弁が散る。



マフラーをしっかりと手に持って。
あなたの下の名前。見えるかい。

いつも君がそこにいてくれるなら。
約束は、今からでも遅くはないだろう?


一人で桜の木を見上げる。








「お、そのマフラー手作りだな。恋人さんか?」

誰かから声をかけられる。
恋人…か。


「……まぁ、そんな所です。」

友達だ、と言ってしまえばよかったのに。
こんな俺を、許してくれるかい。



「そうかそうか、大事にしろよ。」



大事に…大事に、できたら良かったなぁ。

風が吹く。美しく青色に光る花弁が舞った。



チラリと傍らを見ると、
勿忘草が静かに咲いていた。


「私を忘れないで」「真実の友情」


ふっと笑みを零すと、花がふわりと揺れた。
可憐で、それでいて儚げな佇まい。

目立つことなく、静かにその命を美しく散らす。




どこか、君に似ていると思った。



あの日の笑顔には、この花が良く似合う。


風に揺れる小さな花は、触れることは出来なくとも
確かに俺の心にある君の温もりみたいで。


抱きしめることは出来なくても、
ずっと胸に咲いているよ。


心に添えた花束が、君に贈る最後のプレゼントだ。







マフラーを巻いて、花びらの散る空を見上げた。




























あの日の笑顔に花束を

完結です。
ご愛読ありがとうございました。



個人的にこの長編はイチオシというかお気に入りです。

あなたの下の名前の方には恋愛感情はないんですよ。
仲のいい幼馴染なんですよ。
そこがなんか自分でも切ねぇーって思います。

いつか私も尊敬様のような文を書いてみたい。



さて。次の小説はあまあまと言いましたね。

誰を書くか迷っているのです。
まだやってない現メンを書きたいのです。
私の推しを書いて欲しい!って人がいらっしゃれば
コメントしていただけたら書くかもです꙳⋆⸜(´˘`𓐍) ⸝ꔛ♡

それでは次の長編でお会いしましょう!
またね((ヾ(˙ ˘ ˙。)

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