廊下を走っている間、誰も何も話さなかった。私たちが負傷者を抱えてメインルームに着くと、先頭のネムネム先輩たちがヒュッと息を呑んで足を止めた。
後続の私たちが覗き込んでみると、メインルームの中央には…ボロ切れをまとった機械のようなものが鎮座していた。そして、この距離でもわかる錆びた鉄の匂い。
私は目が良い。眼球施術を受けている。だから、人垣の後ろからでも私にははっきりと見てとれた…機械の腕らしきものの先、槍状になっているそこにべっとりと赤黒いものがついているということが。前列の彼らにも同じ光景が見えているのだろう。
その凄惨な光景に、吸い込まれるようにしてふらふらとキャロットがメインルームに入って行った。
…え?キャロット?
ネムネム先輩が叫ぶ。
その瞬間、“二回目の”警笛が鳴り響いた。
《ある日、疑問が生じた。我々はどこから来たのか?誰かに命を授けられ、無責任なまま放置された。》
動きを止めていた機械の歯車がギュルギュルと回転しだす。キャロットはビクッと立ち止まった。何をやっているんだ、早く逃げないと…!私がそう言おうと思った瞬間、機械は槍を無造作に一振りした。
血飛沫が大きな弧を描いて散る。
跳ね飛ばされたキャロットは床に転がって動かなくなった。誰かの悲鳴が響く。
ネムネム先輩が何か叫んでいる。ゲブラーさんを読んでいるのだろうか。
機械は追撃を加えようとしているのか、キャロットの方をグルンと向いた。
私は足を思い切り踏み込んだ。
機械が槍を振り上げる。
足首に刻まれた刺青が赤く光を帯びる。
ドンッ!!
私は床を蹴りつけ、一瞬で距離を詰めた。
ガキィィン!!
刺青が燃えるように熱くなる。痛い。無理に稼働したからだ。シュウシュウと肉が焼けるような音と匂いがする。
私は振り下ろされた槍をメイスの柄で受け止めていた。ギリギリと金属が擦れ合う。機械のレンズの奥がチカチカと点滅するのが見える。この新たな障害物をどう排除すべきか考えているようだ。
バキッ!
私が言い切らないうちにメイスが半ばから音を立てて折れた。降ってくる切先がスローモーションのようにゆっくりと見える。ヤバい。死ぬ。
一閃。
ぶわっと真紅の軌跡が光り、機械は胴体からへし折れ、砕け散った。
《生きてゆくことは苦痛だった。》
またもや助けられたね。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!