そこで考え出したのは、道化でした。
それは、自分の、人間に対する最後の求愛でした。
太宰治『人間失格』
【津島家 用餐】(初めの画像は前回おさらい的な物です)

只、嫌なくらいに煩い心音が、耳に響く。
誰も、何も発さない。静寂が、此の場を支配する。
深く頭を下げているから、男の顔は見えない。
ちらりと横の兄の方へ目をやるのだが、
兄達は汗を流して壁にもたれかけている。
ふと、男が口角を上げ、大きな声で嗤う。
口が引き裂かれんばかりに吊り上げる男。
之で、良いんだ。之で良い。
……御母様は、もう居なくなってしまったけれど……
少しでも、多くの家族が、生きてくれるのなら……
之が、僕の“最適解”だ。
僕が「分かりました」と言い手を触れようとした瞬間、
パチンッ!と乾いた音と共に衝撃が走る。
自分が手を引っ込めると同時に、男も手を下げる。
ふと、視界に映る腕が増えている事に気付く。
気付いた時には、もう遅かった。
手を叩いたのは、御父様だった。
お願いだから止めてよ。僕の選ぶ最適解が、成り立たない。
御父様、此処で僕を止めたら死んじゃうんだよ?
僕なんか放って、放っておいてよ。
……でも、幾ら願っても、届いているはずはなく。
御父様の叫び声で、御兄様達も正気に戻り、声を上げる。
先程の良い玩具を見つけた様な目をしていた男が、
どんどんと曇っていく。
興醒めたような、冷たい声でそう放つ。
僕は、人に嫌われない様に必死で、人の顔色を見るのに
慣れている。其の人の怒ったタイミングも、分かる。
___其れが、今起こっている。
ふと、男が口を開く。
矢っ張りだ。……何となく想像していた言葉が降りてくる。
もう僕は腹を括った。永遠に会えなくても、構わない。
僕を止めようとする御父様の言葉を、強引に遮る。
自分でも酷い顔をしているのが分かる。
乾いた笑いが喉から出た時、御父様も顔を歪ませていた。
僕は、家族の方へ振り向き直す。
すう、と息を吸う。
満面の笑みで、僕は言う。ずっと言いたかったことを。
御母様の前に立っていた男は、立ち上がり……
“母に火を放った。”
ボウ!と音を立て御母様が燃えていく。
火は瞬く間に広がり、壁に移り辺を黒くする。
気づいたら、僕は男に担がれて外へと出ていた。
【津島家付近の森】
目の前がぼやけて何も見えなくなりながらも、
僕は必死に轟々と燃える家に向かって叫んでいた。
男は苛立ちを隠さぬ様に、僕に力一杯拳を振るった。
肉の音が鳴り、衝撃が走ると口の中は血で満たされた。
そう男は叫びながら、ずっと僕に拳や足を振るう。
そう吐き捨てて男は僕を置いて森の奥へと消えた。
体中に激痛が走るが、弱い僕は泣くことしかできなかった。
嗚呼、自分の命を此処まで呪ったことが有っただろうか。
ー現在ー【武装探偵社 社内】
誰も、何も言えなかった。
諦めた様な目で、乾いた笑いを浮かべる太宰さんが、
今は迚も幼い子供のように思える。
……嗚呼、なんて悲しいんだろう。
『御前の所為で死んだ』?『馬鹿な奴等』?
そんなの……そんな訳、無いじゃないか。
僕は思わず言葉が詰まる。
本当は、僕も迫害されていても可笑しくなかったのだから。
院長先生が隠してくれていなかったら、屹度僕は
今頃死んでいただろう。
すると、谷崎さんが口を開く。
悲しそうに笑う太宰さん。
……此人は、一体どれだけ苦しめば赦して貰えるんだろう。
乱歩さんがポートマフィアの太宰さん二人に声を掛ける。
太宰さんは、すう、と息を吸い、吐く。
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い。
けれど、此の痛みは、此の辛さは、全て、
僕の背負わないといけない物。
僕の罪、僕の業、僕の罰。
生まれた事に対する、懺悔の方法。
【あとがき】












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。