鬱々とした日が続いていた。
部屋のカーテンは閉めたまま、時間の感覚も曖昧で、昼か夜かも分からない。
それなのに、その日はなぜか、ふっと立ち上がってリビングへ向かった。
リビングは明るすぎた。
午後の光がテーブルに反射して、目を細める。
そこに、揃えられた数枚の紙が置いてあった。
白い紙。 見慣れない大学名。 「推薦書」という文字。
……一瞬、頭が追いつかなかった。
手に取った瞬間、胸の奥がざわつく。 紙は軽いのに、ずしりと重い。
「……なに、これ……」
親の字だった。
丁寧で、迷いのない文章。
“本人の将来を考え” “安定した進路を” そんな言葉が、綺麗に並んでいる。
最初に湧いた感情は、拒絶だった。
——嫌だ。
——違う。
——これは、私が選んだ道じゃない。
「違う、違う違う違う違う違う違う違う!!」
心臓が早くなり、頭がぐちゃぐちゃになる。
青学に行きたかった。 ぷりっつくんと、同じ大学に行きたかった。
そのために、あんなに泣いて、削って、必死に頑張ったのに。
でも、次の瞬間、思考がすっと冷えていった。
……もう、ぷりっつくんはいない。
隣にいない。 一緒に帰らない。 勉強も、冗談も、励ましも、もうない。
胸の奥が、静かに痛む。 泣くほどの力すら、もう残っていなかった。
——私が青学を目指す理由は、もうここにはない。
推薦書をもう一度見る。 綺麗な言葉たち。
努力、真面目、将来性。
「……これが、私に残された道なんだ」
誰に言うでもなく、心の中でそう呟く。
納得したわけじゃない。 受け入れたわけでもない。
ただ、全部わかったふりをした。
反論する元気も、夢を守る力も、今の私にはなかった。
紙をそっとテーブルに戻す。 音を立てないように。
まるで、自分の本音まで一緒に隠すみたいに。
——この道を選べば、
——私は「普通」でいられるのかな。
答えは分からない。 考える気力もない。
ただ、ひとつだけ確かなことがあった。
私はこの瞬間、自分の気持ちを飲み込んだ。 分かったふりをして、静かに。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。