相手は機械の頂点、【機神種】(ツェレイト)。
しかもキリによると今のこの世界が創られる前の大戦の時期を生き抜いた唯一の機体だとか。
そんな『バケモノ』相手に300年と少ししか生きていない当機はどう立ち回ればいいか。
冷静に熟考しながら行動せざるを得ないが-考えてばかりでは攻撃を食らってしまう。隙が出来てしまうのだ。
何度も言うが相手は機械の頂点なのだ。
当機なんかは配下に置かれているようなものなのだ。
そう、これは相手からすれば決闘、当機からすれば-
精霊反応……こんな天空でも辛うじてある。
【精霊力増幅】(オーヴァ・ステイト)-出力切替【対未知用戦闘プログラム】を編纂、出力調整-『当機の』通常火力の2.25倍から開始、様子を観察、相手の攻撃に合わせ倍率を上げることを設定。
そのキリの一言で2つの心ある機械は音速を超えて空を駆けた。
ネヴェルは追ってくるエクス・マキナの機動力に目を丸くした。
右腕部消失、左翼は全壊しているにも関わらずネヴェルに追いつこうとしているではないか。
ならば、とネヴェルは兵装を起動させる。
エクス・マキナの『後ろに』瞬間移動、【通過規制】(ヴィークネイト)をひとつ設置した。
2つの機械が出した模倣兵装がぶつかりプラズマを起こす。
だが-
ネヴェルの方が火力が上だった。
エクス・マキナは彼方へと吹き飛ばされた。
ネヴェルが城内へ入ろうとした時-背後で吹き飛ばされて行ったはずのエクス・マキナが居た。
そして左足部をあの槍で貫かれた。
だが-ネヴェルは抵抗よりも逃げるのを優先しようとした。
左足部を機体から引き抜こうとしたのだ。だが-ふと冷静に考えてみると『どこに逃げれば安全になる』のかまではわからない。
何ならこの槍ごと近くの外界へこの機体を飛ばすことだって可能なはずだ。
それに-『今の当機の火力は4.85倍になっている』ではないか。
たしかこの模倣兵装は通常出力が元来の82.7%とかなり完璧に近い模倣を完了しているはずだ。
それに今は4.85倍の火力が出る。
これなら一部を損傷していてもエクス・マキナの兵装に勝る火力が出る……っ!!
ネヴェルの【滅龍種】(ドラゴニア)炎龍帝イフリートの『エレブレイトネイル』の模倣兵装はエクス・マキナの【神翼種】(フレイネクト)最強の個体から模倣した兵装よりも火力は上回り-エクス・マキナの持っていた槍がどろりと溶けた。
出力倍率10.25倍、【破綻】を起こす可能性、飛躍的に上昇。
【機聖種】の限界突破容姿になる可能性あり-『まだ』倍率上昇を続けますか?
ネヴェルはプログラムにそんな設定をかけた覚えはないと思いつつプログラムの問いに答える。
『勿論』と……
その瞬間。
空が鳴動した。
星の輝きは失われ、月までもが黒くなった。
地上にいた生物はその現象に目を見張りどよめき始めた。そして、上空ではキリまでもがその現象に驚いていた。
『再生鍵』-ひとりの【吸血種】(ヴァンパイア)たけが使えていた鍵のひとつ、原始の歴難錠・ゲシュタル・トゥワルティアの模倣兵装。
大地と空を揺るがす力を持つそれは-『世界の終焉』そのものだった。
ネヴェルの居た【創造の世界】で大戦が始まったきっかけとも言えるそれは模倣兵装なのに元来の火力を軽く上回った。
使用者-ネヴェルの1番近くに居たエクス・マキナに異変が起きていた。
使用者に力を還元し近くにある全てのものから力を奪うそれは厄災。
キリも、少しばかり力を奪われていた。
その一言を残しエクス・マキナは一時的に起動停止となった。
ネヴェルも力を使い果たしたのか、倒れてしまった。
しかしその後、キリは目を丸くした。
ネヴェルの足元から花畑が広がっていったのだ。
天空に咲く花々は幻想的だった。
2つの機械を囲むように、楕円状に広がっていくそれらは。
先程までの激戦を思わせない美しさだった。
先程まで殺戮の機械が駆けていた空は一瞬にして美しい花畑となり-やけにボロボロな機械城はどこか浮いていた。
しかしよく見るとその機械城にまで植物は生えている。内部から突き出た歯車には蔓が絡み紫色のヒルガオが咲き誇る。
季節という概念を無視して春夏秋冬、ありとあらゆる花々が天空に咲いた。
まるでそこだけ世界を塗り替えたかのようだった。
-当機は負けた。
また、負けた。
7000年経っても、勝てなかった。
エウレに合わせる顔がない。それでもいい。
今は誰とも会いたくない生きたくない死にたい。
機械の頂点なのに、負けた。その事実がプライドを傷つけた。
今回は勝てると思っていた。
勝算は大いにあったはず-なのに何故。
左足部を損傷し以前よりはまともに歩けなくなったネヴェルはエクス・マキナのメンテナンスを行っていた。
今回の戦闘で新たに損傷したのは左腕部の小指部分と右足部のみで、それ以外は特になし。
そのふたつの部位はなんとか修復できたものの、右腕部と左翼部はどうしても修復できなかった。
左翼部は根元からポッキリ折れてしまっているし、右腕部に至ってはパーツそのものが吹き飛ばされてしまったのか、エクス・マキナの部屋に置かれていたパーツをどう組み合わせても足りない為修復不可能という結果になってしまった。
ネヴェルはエクス・マキナのその一言に理由を求められても、と言った。
もう声を聞きたくないと言わんばかりにエクス・マキナは耳を塞いだ。
エクス・マキナの表情にキリとネヴェルは「帰ろう」と同時に言い、地上に戻った。
そもそも誰かにこの体を触られること自体久しぶりだった。
ネヴェルの触り方は最新の注意を払っているように思えた。
-エウレの言う通りだ。
気を失っていようと寝ていようと-触覚だけはなんとか機能していると。
エウレ。君ならどう思う。
当機の今を。強かった当機しか見えていない君は今の弱体化した当機をどう思う。
すっかり錆びた左腕部の掌を見る。
動かす度に金属音が鳴る。
精霊油でも差そう。
大気中のマナを操り油瓶を浮かせ左の掌の真上に来たところでそっと傾け、油を浴びる。
特殊な精霊から出来た油は希少で、キリに年に数回買ってきてもらう。
金色の油を浴びた、赤茶色に錆びた掌を動かし油を馴染ませる。
【機神種】と言えど製造されたのは9000年以上前。耐用年数は無くても経年劣化というものはついてくる。
耐用年数と一緒に経年劣化という概念ごと無くさなかったのは何故かと【機神種】1番機体に問いたいがもう彼は答えてはくれない。
彼の核に当たる部位を見つめる。
瓶に入れられたそれは本人の没後6500年程はするだろうが、核そのものの輝きは未だに失われておらず、むしろ年を重ねる度にその輝きは増しているように思える。
彼が転生でもするのだろうかなんて脳内お花畑だと思われかねない想像をしてみたりもする。
独りでいる事が多くなると、機械だろうが人間だろうがろくなことを考えないのはどうやら事実だということをエクス・マキナはこの身をもって知った。
月光を反射する油を見ながらエクス・マキナは橙色の左目を金色に染まらせた。
ブチブチと城壁からエクス・マキナにずっと繋がれていた、無限に無数の伸びる管がエクス・マキナの体から千切れた。
そう、すべては-
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エルカヌス城内-深夜にも関わらず警備が緩いのは王とその姫が強すぎる証拠。
姫エウレイアの父でありエルカヌス王国国王ファラデウ・ドーレンは国民第一の心優しき王で国民から慕われている。
だから反逆者なんてこの国に存在しない。
エウレイアはエウレイアでその美貌と魔力を売りにしているらしい。
絶世の美女-そう裏で言われているらしいが、機械のネヴェルからしてもそう言われるのには納得出来る。それくらいエウレイアの顔立ちというのは整いに整ったものなのだ。
そして最近小柄で可愛い、しかも超強い機械ロリババア?として注目を集めているネヴェルと、エルカヌス城内には集う形にいつの間にかなっていた。
キリに無理矢理抱えられる形でネヴェルは寝室に移動した。
なぜこの機械の身体を軽々と片手で抱えられるのかが物凄く疑問に思うが-まぁいいとネヴェルの思考もついに停止した。
ネヴェルの寝顔を次々と盗撮しながらそう呟くキリの姿は-世界の秘宝とは思えない程のド変態っぷりだった。
翌日キリがネヴェルに奇襲攻撃として集中砲火を浴びせられ朝から黒焦げになっていたのはまた別の話……。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。