教授「私の父はもともと医者でね…。母も看護師をしていたんだ」
春休みの学校はやはり人が少ない
ましてやこの中庭など
もともと人気がないから
なおさらひっそりとしている
教授「父も母も、私には医者を継ぐ必要はないと、好きなことをしなさいと言ってくれる優しい人だった」
教授「おかげで私は大好きな化学の勉強に打ち込み、見事教授になれた…」
二人がけの小さなベンチに腰掛け
隣でぽつりぽつりと語る教授
校内では強面で厳格な人だと有名だったが
今の哀愁漂うその姿からは想像もできないだろう
教授「しかし、ずっと心残りはあった…。私はこのまま、好きなことをしているだけでいいのかと…」
教授「両親はこの国の医療に貢献している立派な人たちだ…。だから、両親への親孝行の為にも、何か医療に貢献しよう…。そう考えていた頃、、」
いつの間にか目に涙を溜めていた教授は
その涙をこぼさないように空を見上げ
教授「両親が心中したんだ……」
そう静かに言葉を落とした
「…っ、」
「…どうして、、」
教授「詳しいことは私も聞かされていないが、父が医療ミスを犯し、そのせいで患者を死なせてしまったと…」
教授「医者になって一度もミスなどしたことなかった父にとって、この問題はかなりショックだったんだろう…」
教授「ニュースにも取り上げられてしまって、私も沢山取材を受けた…。父親が人殺しになった気分はどうだ?と言わんばかりに…」
医療は、人を救う素晴らしい職種だ
しかしそれと同時に
一歩間違えれば人の人生を左右してしまう
リスクも伴う
それは、医者でも患者でも、、
「…ひどいですね。お父様だって、わざとなんかじゃないのに、、」
教授「仕方ないさ…。どんな理由であれ、一人の命を奪ってしまったことに変わりわないからね…」
仕方ない…
口ではそう言う教授だが
私には、涙で光るその瞳の奥に
怒りとも悔しさとも取れるような
濁った感情があるように見えた
教授「結局父は、同じ病院で働いていた母と共に、私を遺して逝ってしまった…。まだ何も恩返し出来ていないというのに…」
教授「本当は、私も両親のもとへ逝ってしまおうか…。なんてことも考えたよ…」
こんな状況になっては
そう考えてしまうのも無理もない
それでも、教授は今もちゃんと生きている
踏みとどまった理由は一体なんだろうか
「そこから…、どうして生きようと思ったのですか…?」
私が聞くと、教授は溜めていた涙を拭い
先程私に見せた紙を見つめて言った
教授「ここに、私のやるべきことを見つけたからさ…」
教授のやるべきこと、
それがクローン研究…
しかしまだ、
教授とこの研究の関係性がわからない
両親の死とどう関係があるのか
「…この研究は、ご両親とも何か関係があるんですか?」
教授「この研究は、元は私の父が発案していたものなんだ。両親が亡くなったあとの遺品整理で、たまたま企画書を見つけてね…」
なるほど、
つまりこの研究は教授にとって
「ご両親の…、お父様の形見の研究なんですね…」
教授はきっと
お父様が成し遂げられなかったこの研究を成功させ
無念にも傷つけられてしまった医者としての誇りを
取り戻そうとしているのだろう
教授「この研究が成功すれば、医療業界はもっともっと躍進していくはすなんだ…。だから遺された私が父の意志を継ぐ…、そう決めたのさ」
教授「だが、私が継ぐと言っても一人で達成できるようなそんな簡単な研究ではない…。つまり、君のように優秀な協力者が必要なんだ」
私に声をかけたのはそういうことだったのか…
教授「もちろん、先にも言ったが君の夢を邪魔するつもりはない。だから、この件は断ってもらっても構わない」
ただ…と教授は続ける
教授「…もし、ほんの少しでも興味があるのなら、ぜひとも協力してもらいたいんだ、、」
教授の知られざる過去、想い
そして私を選んだ意味
それら全てをもう一度反芻する
この研究に携わることは
実質薬剤師の夢を諦めることになる
でももし、この研究が成功すれば
薬剤師でいること以上の功績を残せるかもしれない
それに、教授には今までに沢山世話にもなっている
こうして私を選んでもらえたということは
きっと何かの縁なのではないか
私の中でじわじわと
一つの"答え"が浮かんでくる
「…教授の想い、しかと受け取りました」
教授「それは、つまり…」
「はい…。私に、」
"その研究やらせて下さい"












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。