※今回も長め(1750文字)
少しだけ月明かりが窓辺から漏れる部屋。
ベージュや薄紫が多いこの部屋で、レイラーはベッドに寝転がっていた。
その目は自身の手にある、スマホを見つめていた。
目を閉じて、記憶を掘り起こす。
一瞬にして検索結果が画面に写し出される。
ゆっくりスライドしていって、あ、と声を漏らす。
それらしき記事を見つけたからだ。
迷いなくタップしてその記事を読む。
【炎舞家の一家殺人犯、まだ見つからず!?】
先日、名門家の一つ__炎舞家で一家まるごと殺される事件が起きているのは有名だ。
祖父・祖母・父・母の四人が炎に焼かれ亡くなった。
燃えたのは本館で、離れにいた執事達は無事だったそうだ。
その凶悪犯は未だ見つかっていない。
遺体が発見されていない一人息子が容疑者に一度上がったが、
その場にガソリンが撒かれていたため炎の能力を扱う者以外が犯人だろうと除外。
現在一人も容疑者がおらず、警察はよりいっそう力を入れて捜査すると発表。
ゆっくりテレビを観ている暇なんて、彼女達にはない。
そもそもテレビなど、情報が制限されていたり、そもそも情報がなかったりするのだ。
こっち側の情報屋のほうが、遥かに良い。
___そんな風に頭の中で思考の寄り道をしていたため、記事のことは頭の隅においやられた。
ホットコーヒーをあおり、一息をつく。
___そろそろ何かが動き出す、彼女はそう確信していた。
その根拠は、勘。
しかしそれは今までの経験から成るものだった。
今日の日中の出来事を頭の中で再生する。
和倉が言っていた…そう、彼と呼んでいた人間のことに、最初引っかかったのだ。
そしてそれは、何か。
いやまて、容姿を言われてもあまりピンとはこなかった。
髪や瞳の色など、数多の人間を殺めてきた彼女にとって使い物にならない情報なのだ。
そうじゃない。
刀……も、そうだが。
この世には"能力"というものが存在する。
そしてそれは全員が賜るモノ。
だが酷似することはあっても、同一のものは無い___
記憶にある。
そう、苦戦した……という訳ではないが、記憶に残っているターゲットがいる。
何故なら、そう……
そう、彼はなんと言ったか。
___夜桜。
そう、そうだ。彼だ。
確かに刀を使っていたし容姿も一致する。
だが、可笑しい点が一つある。
彼は殺されたはずだ。
それも、ラテさんの炎に。
"あの家"の人間だから、殺し損ねるとか…そんなはずはないのに……。
どういう、ことなんだ?
こうなったら、可能性は一つしかない。
一つしかないが……でも、それって……。
死神。
奴は死神と名乗っていると、和倉さんは言っていた。
……たまたま、だよね。
独り言が部屋に響く。
ラベンダー達はいない。不満を言っていたがしっかり別室だ。
俺の世話をしてくれるのは有難いが……もう少し自分のためにするべきだと思う。
あの、ウパパロンという彼。
なかなか良い考えを持っているようだった。
意味のない戦い…………つまり。
殺すなら…その命を奪うなら何か理由がないと。
意味もなく快楽的に命を奪うのは間違っていると。
そういうことなのだろう。
___この考えは裏社会の人間としては可笑しいのかもしれない。
だが……少なくとも、俺は良いと思う。
綺麗事じゃないけど、信念がしかとあるその姿勢。
頭を切り替えて、これからのことを考えよう。
まずこれからどうするか…。
テレビはある事にはあるが、誰もほとんど付けないし。
だから知らなかったけど…普通に考えたら大事件だしね。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!