張り切りすぎたかも。
出来た料理を運んでみたら、
2人用の食卓テーブルをぎっしりと埋め尽くす、
料理の数々。
メインは… ステーキ肉。
結局、奮発して買っちゃったんだよね、牛肉。
らんらん、喜ぶかな…?
いや、喜んでもらわないと。
高かったんだから。
あ〜⋯ 明日からもっと節約生活だよ……
って、明日からのことは考えない!
今日は記念日なんだから!!
今日だけ特別!!
今日だけ!!
と、自分に言い聞かせ、
中身がものすごく寂しくなった財布は見ないふり。
それにしても、
壁掛け時計に目をやると、21時を回ったところ。
本来、らんらんの勤務は17時までなんだけど…
定時に帰ってきたためしがない。
なんたって勤めてる会社がブラック企業だから。
社畜のらんらんは、当たり前のように残業の毎日で。
帰りはいつも20時前後くらいになる。
本当に遅い時は日付け変わる時もあるからなぁ。
今日がそうならないことを祈るばかり…
スマホを取り出して、
『 帰り何時くらいになる? 』
そんなメッセージを送った。
どうせ既読はすぐにつかないだろうから。
時間持て余すし、
先にお風呂済ませておこうかな、って、
スマホを机に置いた。
準備、は… どうしよう。
“ 下 ” の。
男同士のえっちは、何かと下準備が必要で、
準備、しておいた方が… いいかな?
明日は、らんらんお仕事お休みだし。
そういえば最近ご無沙汰だった。
えっと…
最後にシたのって、いつだ??
…それを思い出せないくらいには、やってない。
するにしろ、しないにしろ…
する、ってなった時のために、準備しておいた方が
いいかも。
うん。
“ 記念日 ” 効果なのか、
なんか…
久しぶりにそういう気分かもしれない。
そうと決まれば、
トイレ行って、お風呂で綺麗にしてしまおう。
なるべく急いで。
お風呂入ってる間に らんらんが帰ってくるかも
しれないから。
***
なるべく急いで、
早く、準備もお風呂も済ませた。
…つもりだったけど、
1時間以上かかってしまった。
だ、だって…!
もし、
えっちする、ってなったら…
久々だから痛くなるかもしれないし、
だから、
少し後ろを解して、慣らしておかないと…
って、
そんなことまでしてたら、
余裕で1時間を超えてしまった。
らんらん、さすがに帰ってきてるよね💦
髪… まだ濡れてるけど、
とりあえずこれでいいやっ…!
って、
ドライヤーを切って、
メガネをかけて、
まだ、ほぼほぼ濡れた状態の髪の毛のまま、
洗面所を勢いよく出た。
って、
シーン… とした室内。
見渡してみても、
自分以外の人影はなくて。
……あれ?
チラッと、壁掛け時計に目を向ける。
時刻は、22時半。
あ。
もしかして…
帰ってきて、
疲れてそのまま寝ちゃったとか??
ありえる。
そう思って、
そのまま寝室に向かって、
寝室のドアをそっと開けてみる…
けど、
寝室にもらんらんの姿はない。
寝室のドアを閉めて、
その足で、今度は玄関の方に向かって、
らんらんの靴を確かめてみると…
らんらんの靴が無い。
つまり、まだ帰ってきてない、ってこと。
………なんだ。
まだ帰ってきてないのか。
リビングに引き返して、
テーブルに置いたスマホを手に取る。
お風呂に入る前に送ったメッセージ。
……それに対する返信も無し。
なんなら、既読すらついてない。
スマホ見ないで仕事に没頭してるんだろうな…。
何かに集中してる時、
ほんとスマホ見ないんだよな、らんらんって。
今の俺たちの生活を支えているのは、
らんらんの収入があるからこそ。
俺の在宅ワークでの稼ぎは、微々たるもので…
『俺も外でちゃんと働く』って言ったこともあるけど
『すちに“ おかえり ”って出迎えてもらいたいから』
と、らんらんの要望もあって、
ほぼほぼ専業主夫みたいになっている。
だからこそ、
仕事でらんらんの帰りが遅くなっても、
文句は言えない。
頑張ってくれてるんだから。
スマホを持ったままソファーに移動して、
座ると同時、
小さな溜息が出た。
とりあえず…
らんらんが帰ってくるまでココで待つかー⋯
さすがに、
もうそろそろ帰ってくると思うし、
ん、………ぅ、
ん、ぅ…………?
大きな声がして、
体を揺すられる感覚に、
はっ! …と、目を開ける。
はぁ… と、
溜息を吐きながら、
スーツのジャケットを脱いで、ネクタイを緩める
らんらんの姿をぼーっと見上げる。
……あれ?
おれ、いつの間に寝落ちしてた…?
ソファーに座って、
らんらんの帰りを待ってて…
パッと、
壁掛け時計に視線を向けると、
時刻は、23時50分。
え。
えっ!?
俺、1時間くらい寝てない!?
今の時刻にビックリしながら、
ソファーから慌てて立ち上がる。
らんらんがチラッと、食卓を見下ろす。
……なにそれ。
こんな時間まで、仕事を頑張ってるのかと思えば、
上司と呑みに行ってた、って…?
言われてみれば、
らんらんからアルコールの匂いが漂ってくる。
…なに、その言い方。
それはそうだし、
らんらんの言ってること正論かもしれないけど…
らんらんの言い方に、正直、ムカッときた。
…けど、
正論だから言い返す言葉もない。
は?
“ そんなことより ” ……?
今、“ そんなこと ” って言った??
“ そんなこと ” って、なに???
らんらんの言葉一つ一つに トゲがあるように、
チクチクと、
胸を刺してくる。
らんらんが鞄の中に手を突っ込みながら、
何か言いかけたけど…
一旦、鞄を置いて、洗面所に入っていった。
何を言いかけた? って、
それ疑問をもつ間もなく、
すぐに洗面所から らんらんが出てきた。
洗面所から出てきた らんらんが左手に持っているのは
化粧水。
言い方…
その言葉に、またムッとする。
ムカムカして、
少しキツい言い方をしてしまった。
今、らんらんの顔を見ると、
余計にムカムカ、イライラする気がして、
ふいっと視線をそらす。
そらした視線の先に、食べて貰えなかった晩ご飯。
それが目に入って、俺を苛立たせる。
…………食べないなら、片付けよ。
無言で食卓まで歩いて行き、片付けを始める。
両手に冷えきったお皿を持ってキッチンに入ると、
らんらんが俺の後を追ってついてくる。
キッチン台にお皿をドンッ…と置いて、
隣に立つらんらんを押し退けて、また食卓へ。
いつもなら、
こんなことでこんなにイライラしないのに。
…って、
自分でも疑問に思うけど、
なんでかイライラが止まらなくて。
些細なことが、全てイライラに繋がる。
毎日毎日、
仕事に追われてばっかで時間に余裕がなくて、
社畜の割に、生活もギリギリだし。
毎日寝不足で目の下のくまが酷い。
休日は無精ひげ生やしたまま、
ほぼ一日中死んだように寝てる。
仕事してるか、寝てるか。
だから、見るのは、
仕事で着るスーツ姿か、パジャマのスウェット姿だけ
私服姿なんて滅多に見ない。
オシャレとはかけ離れてる。
2人で出掛けたのって、いつ?
そんなの覚えてない。
だって、ずいぶんと前だもの。
交わす会話の内容も毎日似たり寄ったりで、
業務的で、
何の面白みもない。
最初のうちは、
俺が頑張ってやってた記念日や誕生日のお祝いも、
俺がやらなかったら…
ただの平日になる。
2人の時間なんて、無いに等しい。
朝はギリギリまで寝てて、
朝ごはん食べて準備を済ませたら、
バタバタしながら家を出ていくし…
夜も帰ってくる時間が遅くて、
ご飯とお風呂を済ませて持ち帰りの仕事をしてたら
あっという間に深夜。
俺が寝ただいぶ後に寝てるみたい。
2人でいる時間は、一日の中のたった数時間。
その、たった数時間も、
ただ同じ空間に居るってだけ。
らんらんが仕事で家を空けてる間、
俺は家事を淡々とこなして、
らんらんが居ても、
何かしらの家事をしてて…
家事をやるのが、嫌なわけじゃないよ?
………だけど、
自分が、家事をするためだけに、居るみたいで、
家政婦みたい。
そう思えてならない。
そうやって自分の存在が惨めに感じれば感じるほど…
昼間に偶然再会した、
みこちゃんと、みこちゃんの奥さんの、
その2人の仲睦まじい姿が、
何度も何度も目の前にフラッシュバックしてきて、
余計に、
更に、今の自分が惨めに思えてきて仕方がない。
みこちゃんと再会して…
俺には眩しいくらいにキラキラしていたみこちゃんと
その余裕のある暮らしぶりを目の当たりにして、
それに触発されるように、
勢いでちょっと高めの化粧水なんか買ったけど…
長年、放っておいたカサカサに乾ききったお肌が
一瞬で潤わないのと一緒で、
化粧水一本で、
みこちゃんみたいにキラキラになれるわけがないし、
暮らしが華やかになるわけもない。
この、現状は… 何一つ変わりやしない。
虚しい…
みこちゃんなら…
記念日や、誕生日を…
忘れず、
一緒にお祝いしてくれるんだろうな……
みこちゃんなら…
何よりも2人の時間を大切にしてくれるんだろうな…
みこちゃんなら…
みこちゃんなら、
みこちゃんならっ───────⋯
心の中で呟いたつもりが、声に出たらしい。
らんらんが “ みこと?”って、
みこちゃんの名前を口に出して…
それから、
表情をみるみるうちに険しくさせる。
らんが怒ってる。
聞いた事ない、らんの怒鳴るような声。
でも今は… それすら、俺の神経を逆撫でる。
頭に血が上る。
体が沸騰したように熱い。
……は?
俺は、何も知らなかったのに。
今日、みこちゃんと再会して、
奥さんの存在を初めて知ったのに。
それなのに…
らんらんが気まずそうに視線をそらす。
一瞬、口ごもった後、
らんらんは視線を外したまま、
ポツリと言葉をもらした。
そんなの… 俺、知らない、
らんから何も聞いてない、
隠してたってこと??
みこちゃんから届いた俺とらん宛ての招待状のことを
俺に隠して、
勝手に欠席の連絡して…
俺には何にも言わないで、
怒り通り越して、
なんか…
も… 泣けてくる。
床に落とした視線。
それがどんどん歪んで滲んでいく。
瞬きすると、
床にポタポタと涙の粒が落ちて…
らんが手に持っていた化粧水を投げると、
ゴトッと鈍い音をたて、
俺の足元に転がった。
その、らんの言葉に… 頭が真っ白になった。
パンッッ…
と、乾いた音が部屋に響いて、
右手がじんじんと痛い。
人を殴ったのなんて… これが初めて。
らんの頬を引っぱたいた右手が、
胸が、
死ぬほど… 痛い。
俺なりに色々頑張ってきたんだ。
色なこと我慢しながら、
それでも、
自分が選んだ人生だから、って…
俺なりに、
らんとの人生を築いてきたつもりだった。
でも、
今の、らんの一言で…
全て、否定された気がする──────⋯
今までの自分を否定されて、
浮気、だなんて… そんな疑いまでかけられて…
も… だめ。 むり………
頭ん中… ぐちゃぐちゃだ………
“ あの時 ”
叫んだ勢いのまま、部屋を飛び出した。
やり直したい、やり直したい、やり直したいっ…
“ あの時 ” をやり直せるなら、やり直したいっ……
みこちゃんとなら… きっと、幸せな未来があった。
“ あの時 ” らんじゃなく、
みこちゃんを選んでたらっ──────⋯
“ あの時 ” の “ 選択肢 ” さえ間違わなければっ……
神様っ…
神様っ……
ゆくあてもなく、ただただ無我夢中で走りながら、
そう、強く思った瞬間…
急に、目の前が真っ白になった─────────。
🐈⬛⸒⸒⸒⸒ つづく。
🐈⬛⸒⸒⸒⸒ 次話に進むためには…
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。