第14話

合格者
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2026/06/20 11:00 更新
掲示板の前。

誰も喋らなかった。

ざわめきは聞こえる。

だけど。

拓途の耳には何も入ってこない。

目だけが紙を追う。

名前を探す。

上から。

順番に。

そして。

見つけた。



川縁 拓途



一瞬。

思考が止まる。

本当に?

見間違いじゃない?

もう一度確認する。

そこにある。

確かにある。

川縁拓途。

自分の名前。

合格。

胸の奥が大きく鳴った。

夢に少しだけ近付いた。

その瞬間だった。

隣から聞こえた。

「……あ。」

海龍の声だった。

ꕤ︎︎

拓途は振り返る。

海龍は紙を見つめたまま動かない。

笑っていない。

いつもの海龍じゃない。

拓途はすぐに理解した。

名前がなかった。

海龍の名前は。

どこにも。

ꕤ︎︎

周囲から歓声が上がる。

泣いている人もいる。

喜んでいる人もいる。

でも。

海龍は動かなかった。

ただ。

紙を見ていた。

ずっと。

「海龍。」

拓途が声をかける。

返事はない。

数秒後。

海龍が小さく笑った。

無理やり作った笑顔だった。

「おめでとう。」

拓途は何も言えない。

海龍は続ける。

「すごいやん。」

笑う。

だけど。

目だけが笑っていない。

悔しいに決まっている。

だって。

誰よりも頑張っていたから。

拓途は知っている。

レッスン後も残っていたこと。

人一倍練習していたこと。

夢を本気で追っていること。

全部。

知っている。

だから。

何も言えなかった。

ꕤ︎︎

海龍はその場を離れた。

一人で。

誰にも見られないように。

拓途は追いかける。

気付いたら走っていた。

階段。

非常階段。

屋上へ続く踊り場。

そこに海龍はいた。

手すりにもたれて空を見ている。

夕焼けだった。

プロローグの公園みたいな色だった。

ꕤ︎︎

「海龍。」

「来たん。」

振り返らない。

海龍らしくない。

それだけで苦しかった。

しばらく沈黙が続く。

やがて。

海龍が笑った。

「悔しいわ。」

震えた声だった。

「めっちゃ頑張ったのにな。」

拓途は何も言えない。

海龍は続ける。

「受かる思ってた。」

その一言に。

全部が詰まっていた。

努力も。

期待も。

夢も。

全部。

「……俺。」

海龍が拳を握る。

「才能ないんかな。」

その瞬間。

拓途は顔を上げた。

初めてだった。

こんな顔をするのは。

「そんなことない。」

強い声だった。

海龍が目を見開く。

拓途は続ける。

「絶対ない。」

静かな人間が。

本気で怒った時の声だった。

「海龍は。」

息を吸う。

そして。

真っ直ぐ言った。

「俺が一番認めてる。」

海龍が固まる。

「お前。」

拓途は拳を握る。

「負けたくないって思った。」

「海龍に。」

「何回も。」

初めてだった。

こんなに感情を言葉にしたのは。

海龍は目を伏せる。

そして。

小さく笑った。

今度は少しだけ本物だった。

「なあ。」

「ん?」

「次は受かる。」

海龍が言う。

涙を拭きながら。

「絶対。」

拓途も頷いた。

「うん。」

海龍が笑う。

「負けへんからな。」

その言葉に。

拓途も少しだけ笑った。

「俺も。」

夕焼けが二人を照らす。

夢の途中。

まだ終わりじゃない。

むしろ。

ここからだった。

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