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第3話

百合の咲く丘
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2026/08/03 09:00 更新





 藤澤さんのところで働き始めて数日が過ぎた。



 だんだんとこの生活にも慣れてきた。




 家に置いてくれている藤澤さんに見捨てられないように、
 店のことだけじゃなくて家事の手伝いもしている。




 働いて、働いて、夜には気絶するように眠りにつく日々だった。




藤澤 涼架
ほい元貴くん、これよろしくね
大森 元貴
あ、はぁい





 その時、入り口ののれんがふわりと動いた。




大森 元貴
いらっしゃいませ………あ
こんにちは!
あ、元貴くん!
大森 元貴
若井さんっ………!
大森 元貴
えーっと、この前はありがとうございました
若井 滉斗
よかったねぇ、元気になって
若井 滉斗
店の仕事を手伝ってるの?
大森 元貴
はい、住み込みで
若井 滉斗
それはよかったね!





 その時、若井さんと一緒に入ってきた軍服の男の人たちが
 僕をまじまじと見ていることに気が付いた。




おお、可愛らしい男の子だな!
大森 元貴
ふぇっ?
藤澤さん、いつ看板息子を雇ったんだ?
小型犬みたいで可愛いな
おい若井ぃ!抜け駆けするなよ
若井 滉斗
こらこら、元貴くんが驚いてるじゃん!
元貴くんっていうんだね、年はいくつ?
大森 元貴
わっ、えっと、16歳です………
藤澤 涼架
ふふ、いい看板息子ができたよ





 藤澤さんは楽しそうだった。





 彼らはここら辺の基地に配属された軍人らしい。



 料理が届くと、嬉しそうに声を上げた。




ああ、うまい!
やっぱり藤澤さんの料理がいちばんだ!
おふくろの味だ~!





 食事を終えても彼らは店を出ず、藤澤さんを交えて談笑を始めた。




若井 滉斗
元貴くん、元気ない?
大森 元貴
えっ
若井 滉斗
もう食事時は過ぎたし、少し外に出ない?





 ちら、と藤澤さんに目配せをすると、「いってらっしゃい」というように手を振っていた。









 外にはたくさんの人が歩いていた。



 森の小道のようなところを歩いていくと、小さな丘のような場所についた。




若井 滉斗
もうすぐ着くよ
大森 元貴
は、はい





 ふと空を見上げると、真っ青な空が広がっていた。



 周りにそびえていた木が少なくなって、視界が開けてくる。




若井 滉斗
元貴くん、おいで
若井 滉斗
見てごらん
大森 元貴
___うわあ!





 丘の上を埋め得つくしていたのは、無数の百合の花。



 純白の花弁が、眩しいくらいに輝いていた。




大森 元貴
すごい………!こんなの初めて見た!
大森 元貴
すごい、きれい………
若井 滉斗
気に入ってくれた?
大森 元貴
はいっ………
若井 滉斗
初めて笑ってくれた気がする………
若井 滉斗
連れてきてよかった!





 一気に距離が近くなって、思わず後ずさる。




若井 滉斗
わ、ごめん、近かったよね
若井 滉斗
元貴くんと同じ年頃の弟がいてね………
若井 滉斗
もう、何年も会ってないけど………
大森 元貴
………
若井 滉斗
ちょっと座って話そうか





 僕は頷き、百合の花に囲まれた空き地に座る。



 じぃっと若井さんの顔を見ていると、
 とても端正に整っていることに気が付いた。



 切れ長の瞳、への字に結ばれた口、綺麗な鼻筋。




若井 滉斗
元貴くん?どうかした?
大森 元貴
や、えっと、あの………
大森 元貴
わ、若井さんって、かっこいいですね
若井 滉斗
えっ?
若井 滉斗
ふふっ、そうかな?
若井 滉斗
でもかっこいいなんてうれしいっ 笑
大森 元貴
……すいません
若井 滉斗
いいんだよいいんだよ、褒めてくれたんだから!!!






それから若井さんは、静かな口調で自分の話をしてくれた。





大森 元貴
若井さんて、今何歳?
若井 滉斗
今年で20歳
大森 元貴
若井さんの弟は何歳?
若井 滉斗
今年で16歳かな
大森 元貴
じゃあ僕と一緒だ。若井さんとは4つ………
若井 滉斗
ちょっとさ、その呼び方やめない? 笑
若井 滉斗
なんか弟と同い年の子にそんな呼び方すると変な感じがするから!
大森 元貴
じゃあ、なんて呼べば………
若井 滉斗
そーだね、下の名前でいいよ!!!
大森 元貴
下の名前………
大森 元貴
ひろと、さん?
若井 滉斗
呼び捨てでいいよ
大森 元貴
滉斗………?
大森 元貴
なんか、違和感ある
若井 滉斗
うーん、じゃあ………
大森 元貴
わかい、若井………
若井 滉斗
んふっ、面白いね 笑 それでいいよ
若井 滉斗
俺も元貴って呼ぶね!





 呼び捨てで呼べることはなんだか距離が縮まったようで嬉しかったが、
 弟さんと重ねられることはなんだか複雑な気持ちだった。









あのときはおかしかったわね 笑
そうそう、田中先生が板書をなさってるときに___
大森 元貴
うわあ学校、懐かしいな………
若井 滉斗
元貴の学校も学徒動員されたの?
大森 元貴
ガクトドーイン?
若井 滉斗
えっ、学徒動員を知らないの?元貴はどんなところにいたんだ………
大森 元貴
いやぁ、あはは………
若井 滉斗
元貴は、学校に戻って勉強したいって思う?
大森 元貴
うん………そうだね
大森 元貴
普通に学校行って、授業受けて、友達とおしゃべりして
大森 元貴
そういうの、失って初めてありがたいものなんだなって気づいた





 僕がそういうと、若井は僕の頭を優しく撫でてくれた。




若井 滉斗
………すぐに戻れるよ
若井 滉斗
日本軍がアメリカに勝てば、すべてが元通りになるよ
若井 滉斗
………俺が命を懸けて、元貴や弟をいつも通りの日常が過ごせるようにする
大森 元貴
(なにそれ、意味が分かんない。)
大森 元貴
馬鹿じゃないの?
大森 元貴
戦争なんて、初めからやらなければよかったのに
若井 滉斗
………確かに、そうかもしれないね
若井 滉斗
でも、始まってしまったからには仕方がないよ
若井 滉斗
日本軍がアメリカに負けてしまったら、元貴や藤澤さんなんかも酷い目に遭う………
若井 滉斗
だから、どうしても勝たないといけないんだ
大森 元貴
………なにそれ
大森 元貴
誰かの命を救うためなら、自分の命がなくなってもいいの?
若井 滉斗
………でもそうしないとこの国を救えないんだ
大森 元貴
………勝手にしてっ、






 僕は何故か目から溢れる涙を拭って、藤澤食堂へ帰るべく走り出した。




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