第41話

感触
274
2026/01/14 10:00 更新




治に手を引かれたまま食堂に着く。










(治から一旦離れよう、)











手が離されようやく自由の身となった私は
いそいそと治が向かった逆方向へ行く。



まだ手に熱がこもっている。

顔も熱いままだ。








顔を伏せながら先程私達が用意したトレーに
よそったご飯やおかずを取っていく。









🗣 〜 !!











🗣️ 笑笑笑











周りはもう賑やかで
部員たちの声や食器の音が混ざり合っていた。






あなた
  空いてるところ....  





あなた
  あった  



何とか空いている席に腰を下ろそうとした、その時




隣の椅子が引かれて、
治が当たり前みたいな顔で座る。


あなた
  ?!  





(いつの間に?!)







一瞬だけ、心臓が跳ねたけれど
何か言えるわけもなく
私はそのまま箸を取る。





あなた
  .....  


ちらりと横に座っている治を見る。











(さっきもそうだったけど距離近くない、?!)







急に距離を詰めてきたり、手を握ってきたり
etc.....





宮治
  ......  


治は何も言わずに一口食べてから、
ふと、私の手元に視線を落とす。



宮治
  .....指、どうしたん?  


その一言に、少し肩が揺れる。


あなた
  あ、これ? 
さっきちょっと切っちゃって




軽く切っただけだったが意外とヒリヒリする。






傷跡に手を当てると

治も、じっと絆創膏の巻かれた指を見て
眉をひそめる。

宮治
  ちょっと、で済む切り方ちゃうやろ  
宮治
  無理すんな言うたやんけ  


声が、ほんの少しだけ低くなる。
けどいつもより穏やかだった。









治はそれ以上何も言わず
そのまま箸を伸ばして一口、口に運ぶ。

次の瞬間。



宮治
  うま!!



思わず、という声だった。
宮治
  これ、自分らが作ったん?  


ずいっと身を乗り出して聞いてきた。
あなた
  、うん
そうだよ



そう答えた瞬間、前世の記憶がふっとよぎった。


母子家庭だったからこそ、
仕事に疲れて帰ってくる母が

ほんの少しでも楽ができるように。

ほんの少しでも、休めるように。






役に立ちたくて
それだけの気持ちで
台所に立っていた、あの頃を。



(……あの時、頑張ってきたものが
ここで役に立つなんて)




宮治
  〜 !  
あなた
  .......  


横で美味しそうに食べる治の様子を見る。









別に評価されたいわけじゃない。


ただ、認められた気がして嬉しかった。














食事を終えると、みんなそれぞれ散っていく。


自主練に向かう人、風呂へ行く人。






私は食器をまとめて片付けを済ませ
マネージャーとしての仕事に戻った。










雀田かおり
  皆異常なし!  
雀田かおり
  そっちはどうだった?  
あなた
  私のところは全員大丈夫でした!  






そう言った途端ふと
侑に聞いた時のことを思い出す。


あなた
  体調はどう?大丈夫?  
熱とか怪我とか
宮侑
  ....おん  


短くて、素っ気ない。
感情を削ぎ落としたみたいな言い方。

一瞬だけ、胸の奥がちくりとしたけど
こんなことでいちいち引っかかってたら
きりがない。






私は管理表に目を通す。
あなた
  けどまだ音駒の方を聞いてないので  
行ってきます!
白福雪絵
  りょうかーい
じゃあ私たち先に監督に伝えとくね
あなた
  ありがとうございます!  









あなた
  全員異常なしです  
大見太郎
  了解
ありがとな
あなた
  はい!  


監督にそう伝え、
私は音駒のほうへ向かった。

黒尾鉄朗
 

黒尾さんは、すでに全員分を把握しているらしく
簡潔に状況を教えてくれる。






(さすがだな....)




そう思った直後
自分の分を聞いていないことに気づいた。



あなた
  あの黒尾、は体調大丈夫?  


なるべく顔を見ないように問いかける。

直視すると、余計な邪念が入りそうだった。



あなた
  無理とかしてない?怪我とか  


体調管理表に目を落としたまま、
もう一度聞いた瞬間


黒尾鉄朗
  んー  


なにか考える素振りを見せたと思ったら
手首を取られた。


あなた
   んえ、  





驚く間もなく、そのまま引かれて____
私の手のひらが、彼の胸元に当たった。












(.....え?)













   思考が止まる。





布越しでも分かる、確かな鼓動。


どく、どく、と一定のリズムで刻まれていて
それが妙に生々しくて、現実感が追いつかない。






黒尾鉄朗
  お嬢さんのせいで
心臓バクバクなんですよね
あなた
  ......はっ?!  


驚いて顔を上げた瞬間
熱が一気に顔に集まるのが分かった。







(な、なに言って……!?)











視線が定まらない。





心臓が激しく動く。

自分の鼓動なのか、彼のものなのか、
分からない。



手を引くことすら一拍遅れる。




あなた
  た、たくさん動いたから、だよ!  



必死にそう言うと、
自分でも分かるくらい、声が裏返っていた。





顔、絶対真っ赤だ。




黒尾鉄朗
  ハハッ、冗談ですよ〜 笑  



軽く手を離される。
黒尾鉄朗
  そんな顔しないでくださいー  
 

離れたかと思ったら
より距離を近づけてきた。








(……もう限界)








私はリストを挟んだバインダーを
顔の前に持ち、走ってこの場から離れた。

あなた
  ....っ、 


これ以上近づかれたり、何かされたらもたない。





そして何より鼻血を出して
服を汚してしまったら
申し訳が立たない。




以前の侑にやってしまったことを思い出し
より走るスピードが早くなる。


黒尾鉄朗
 あっ、おい!あなたの下の名前  




胸の奥で暴れる鼓動が、言うことを聞かない。



落ち着こうと息を整えても
吸うたびに空気が引っかかる。

















あなた
  はぁっ、びっくりした.....  



(なんで、急にあんな事を、)










もしかして本当にそういう
関係だったりするのだろうか








(いやでも違う気もする
.....幼馴染とか?)






それだったらあの距離感も理解できる。













落ち着かない頭で考えながら
肩で息をしながら、手に視線をやる。





あなた
  ......  




数分経ったのにも関わらず
手のひらに残った感触が消えてくれない。








服に手を当てても
感覚は鈍らず、そこだけ熱を持っていた。

















(ただのからかい そうただのからかいだ)










頭ではそう結論づけているのに
心臓だけが納得せず、
視線を資料に落としても
文字がうまく頭に入らなかった。













あなた
大見太郎




午後のメニューを全て終え
現在コーチと明日の予定や
設備等の管理を話している。

















(……だめだ、何にも頭に入ってこない)






ただひたすらにコーチの言ったことを
そのままノートに書き留めている。














大見太郎
  .....よし以上や
じゃ俺は体育館におるから
何かあったらそこに来てな
あなた
  ......  


大見太郎
  ...っておいあなたの名字?  
あなた
  っ、はい!  
大見太郎
  俺はもう行くけど
大丈夫か?
あなた
   ....あ、大丈夫です!  


少しだけ遅れて、そう返す。



コーチの背中を見送りながら
私は胸に残ったざわつきを、ぎゅっと押し込めた。






(……仕事、仕事)






今は、それだけに集中しないと。


私は明日のメニューについて
書かれた資料に目を通した。


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