温かい陽の光が差し込む室内。
とある国が心踊らせ茶会の準備をしていた。
一つひとつ指差し確認をする姿はまるで車掌…。
かの有名な美食国家だろうとも、恋するとちゃんとIQが下がったりするのである。
…そんな事も、言ってみたりする。
ピンポーン
トントン、と軽やかなステップを踏みつつ玄関へ向かう。作ってない、本物の笑顔と共に。
なんて言いつつ、心臓はドキドキバクバク。今日何かしらミスったら、それこそフランスの恋路は途絶える。
細心の注意を払い、今日という日を楽しむのだ。
右手に握られた紙袋を差し出す。
そんな事はどうでもいい、と言わんばかりにそそくさと椅子に座る彼。陽の光に照らされるリビングを見て、静かに微笑んでいた。
ティーカップをコト、と置いて軽くあしらう。
それはいつも見ていた彼と全く同じで、思わずフランスの心臓は跳ね上がってしまう。
危ない、と失言を抑える。さっきまで頭の中で何回も、何回も意識していたのに。やはりハイになっているのだろうか。
待ちに待った今日という日を、みすみす逃す気は毛頭ないのだ。
口元に手を持っていく。彼のよくする癖だ。たいてい深く考え事をしているため、半端な話題では見向きもされない。
先に口を開いたのは彼の方だった。
一瞬、重く冷たい空気が頬をかすめた。が、気のせいにでもするように、ワントーン上がった声が鳴った。
あはは、と笑いを溢す。もう忘れよう、何度も頭に覚え込ませる。そうすると次第に平気になっていくものだ。フランスは、今までそうやって生きてきた。
あれ、なんか…
結構反応良くない!?!?
目を細めて笑う彼は、気のせいかもしれないが心から笑っているようで。そうだ。この顔が見たかったのだ。
つい最近のこととも思える、イギリスのEU脱退。あれから接点が一つ、また一つとなくなった。それで何が起こるのか。単純に会う回数が減るのだ。すると、
…こんな言葉も、滅多に聞けないのだ。
一瞬たじろぐ。
その笑顔を目にするたび、自分の中の苦い感情が顔を出すから。
「この笑顔を壊してはいけない。」
そうして恋心にそっと蓋をするのだ。この気持ちを吐き出せば、それはもう楽になるだろう。でも、できない。今の心地いい関係に、ヒビが入るから。
できることなら、このままずっと、押し込み続けたい。そう願っている。
ゆっくりと帰り支度を始めるイギリス。
そこには、見えない名残惜しさをまとっている。
ガタン。椅子が揺れる。それは、この至福の時に終わりを告げる音色にはいささか不相応で。フランスの心を冷ますには十分だった。
でも、それを顔には出さない。
顔を上げ、少し不安そうな顔で答える。
グシャ、と何かが壊れる。
この男は、どこまでフランスの心情を掻き乱したら気が済むのだ。傷を受けつつ回復させられる、生き地獄のようなものだ。
…そんな理解されない恋心を、少し吐き出したくなったのだ。
一瞬、どす黒いそれをのぞかせ、瞬時にしまう。
そんなわけない。内心バクバクでたまらない。
愛しの人と両思い、しかも自分が他の男とランチに行って嫉妬してる?
そんな気持ち悪い妄想を、彼にぶつけたのだ。幸い、気づかれてはいないようだが。
ドアノブに手をかけ、開く。欧米式の内開きだ。
ギィ、と音を立て蝶番が仕事をする。
やがて背後の青空さえも見えなくなり、そこには冷たい風だけが残っていた。
扉の向こう側に消えていく彼を、2色の瞳が、ただ見つめていた。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。