目の前で獣をなぎ倒していたのは、ソンウだった。
その姿に言葉も出ず、逃げ出すことも出来ず、私はただ尻もちをついたまま目を丸くして見ていた。
ソンウは私に気づき、私と同じように目を真ん丸くして驚いていた。
怖くて声が震えてうまく喋れない。
違うんだ。こんなんじゃ…
ガバッッ
喋ろうとした時後ろからまた音が聞こえた。
急いで振り向くと、そこにまたさっきの怪物が倒れていて、ジェファンも立っていた。
ジェファンとデフィくんも、ソンウと同じように口元を血で赤く染めていた。
状況が理解できなかった。なんでこんな、みんななんで、
ソンウにそう言われ、2人は森の奥へと消えていった。
ソンウは怪物の亡骸を私に見えないようにして、私の前に座り込んだ。
ソンウから微かに臭う血なまぐさい臭い。
私を見つめる黒かった瞳も燃えるような赤色になっていた。
その目付き、その瞳の色。
魔獣……私は祖父母から聞いたことがあった。
神話やこの街の歴史など。ずっとずっとおとぎ話として聞いてきた。
それが、目の前に?わからない。
ソンウは少し悲しそうに笑った。
ソンウの口から出てきた言葉は、想像もしていなかった言葉だった。
ヴァンパイア。
動物や人間の血を飲む魔人…。おばあちゃんからは1番危険な存在だと言われていた。
それが、ソンウ?ソンウがヴァンパイア?
そう聞いて辻褄が合うところが多くなった。
化かす、や俺たちの一族。
それでも訳の分からない話ばかり。
後ろからジソンさんが現れた。ジェファンがみんなを引き連れて戻ってきたみたい。
そう言ってジソンさんは私に手を差し伸べる。
その手を握って立とうとしても、足に力が入らなくて立てなかった。
ジソンさんの首に手を回され、私はひょいっと持ち上げられた。
こんな、お姫様抱っことか初めてされたっ。ってそんな場合じゃないのにあたふたしてしまう。
暴れる私にジソンさんは優しく微笑んできた。
その顔を見た瞬間、急に体に力が入らなくなった。
なんで力が入らないの…。体がリラックスしすぎて不思議になる。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。