Koji Side
彼女の部屋に招かれるようになって、何度目か。
仕事が長引いて帰ってこない彼女の部屋に、合鍵を使って先にお邪魔する。
合鍵使って先はいるよ?って先に連絡して、彼女からのOKってスタンプを確認してから、彼女の家の扉を開けた。
相変わらず、きれいに整頓された部屋の真ん中にあるローテーブルには、開かれたまま置いてある、1冊のアルバム。
制服姿のあどけない彼女の姿が写ってるそれは、きっと高校の卒業アルバムかなんかやと思う。
めっちゃ可愛いやん…。
このころに出会いたかったなぁ~~なんて思ってみても、遠い昔に過ぎ去った時期やし、俺はこのころまだ関西におったしな?
まじまじと見るつもりはなかったんやけど、やっぱり、可愛い彼女なんやし、目に留まってしまうよね。
その中でも…。
男の子と二人で満面の笑みでピースしてる彼女を見て、ぴたりと止まってしまう。
天真爛漫でしっかりとしていて、でも時々ちょっとだけ抜けてるようなところがある彼女。
可愛くて、楽しくて一緒にいると安心ができる…そんな存在になっとって。
そんな素敵な彼女やからこそ、過去に付き合ってた人がおっても不思議じゃないって思ってた。
やけど、実際にそれっぽいものを目の前で見るんは、ちょっとだけ話が違う。
まぁ、わざとじゃないんはわかるんやけどね。
食材を順番に取り出して調理に取り掛かる。
お風呂も準備して、いつでもくつろげるようにしといたろかな!
見てしまったもんを払しょくするように、無心で手を動かした。
こんなことを気にしとるようじゃ、俺もあかんね。
分かってたことのはずやのに…。
ひとしきり、ご飯を作り終えたころくらいに鍵が開く音が聞こえて、少し疲れた顔の彼女が帰ってきた。
俺の顔を見た途端に、笑顔を作って笑ってくれる。
無理して笑わんでもええのにね…。
ごめんね~と言いながらバタバタと準備を始めようとする彼女を引き留めて、そのままお風呂場に直行。
そういうと彼女は、俺にぎゅっと抱き着いてきた。
疲れたら甘えたになるん、めっちゃ可愛いよね。
俺しか知らん彼女の一面なんやけどね。
でも、もしあの写真の彼氏も知っとったら…。
そんなことを考えとったら、抱きしめてた力が強くなったみたいで、腕の中からちょっと戸惑ったあなたの声が聞こえてきた。
少し下から、彼女が背伸びをして首をかしげながら俺に顔を近づけてくる。
めちゃめちゃ可愛いんよ…。
おでこにキスして、体を離すと変なこーちゃんって言われた。
そう言った彼女にやっと本当の笑顔が戻る。
こっちの笑顔のほうがずっと好きなんよね。
Girl Side
仕事が忙しいと心が荒んでくるんだけど、そんな時でも彼は優しい。
何があったのかも聞かないし、でも疲れてることは察して、先回りしてやらないといけないことをやっていてくれる。
お風呂に入って、のんびりとしてから上がると着替えもちゃんと準備されていて、至れり尽くせりに申し訳なくなってしまう。
関西人の独特なノリと、その優しさでいつも私を笑顔にしてくれるこーちゃんだけど、それだけじゃないのが彼の魅力で。
こーちゃんの与えてくれる優しさに、甘えすぎている自分がいると思う。
でもそれでいいって、言ってくれるこーちゃんがいてくれて、すごく幸せだと思う。
でもその優しさに甘えすぎてる自分が嫌になるのも否めなくて…。
髪の毛を乾かしてから、リビングに戻ると、そこには美味しそうな料理が並んでいて、あったまった~?とこーちゃんの柔らかい声が聞こえてくる。
今日あった仕事の愚痴を聞いてもらいながら、楽しい食卓を囲む。
こーちゃんとずっと一緒だったら、ずっとこんな風に暖かい時間を過ごせるのかな?
賑やかで、楽しくて、暖かくて笑いが絶えない、そんな幸せを掴めるのかな。
笑顔でちょっとだけごまかして、ご飯を食べ終えると片付けのために席を立つ。
ごまかした笑顔だって、彼にばれないように、気づかれないように。
振り向くと、真剣な顔でこちらを見つめてくるこーちゃんがいる。
まっすぐに少し淡い茶色の瞳が近づいてきて、後ずさりするけど、後ろにはシンク。
前から近づいてくるこーちゃん、んーん、康二から逃げられなくて、諦めて視線だけをそらした。
ぎゅうっと優しい、柔らかい康二の匂いに包まれて、ふっと涙腺が緩みそうになる。
大したことじゃなかった。
たまたま、職場の近くで、高校時代の同級生と再会したこと。
昔話で花を咲かせている最中に、当時付き合っていた元カレの話になったこと。
色々わけがあって彼とは別れたこと。
彼の言葉にアルバムから振り返ると、やけに真剣でソファに腰かけていて。
隣りに座り込むと、ゆっくりと顔を近づけてくる。
遮るように、甘いキスが落ちてきた。
強引じゃないのに、男らしくて、それでいて優しいキスを何度か繰り返して、唇が離れると、さっきのキスと同じように優しくて甘い笑顔を返してくれる。
じわりと滲んだ涙は、また彼に気づかれていて、彼の指が拭ってくれる。
そう言うと、もう一度甘いキスをくれた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。