第16話

Sweet Sweet
311
2023/12/07 09:05
Koji Side


彼女の部屋に招かれるようになって、何度目か。
仕事が長引いて帰ってこない彼女の部屋に、合鍵を使って先にお邪魔する。


合鍵使って先はいるよ?って先に連絡して、彼女からのOKってスタンプを確認してから、彼女の家の扉を開けた。


相変わらず、きれいに整頓された部屋の真ん中にあるローテーブルには、開かれたまま置いてある、1冊のアルバム。
制服姿のあどけない彼女の姿が写ってるそれは、きっと高校の卒業アルバムかなんかやと思う。


めっちゃ可愛いやん…。
このころに出会いたかったなぁ~~なんて思ってみても、遠い昔に過ぎ去った時期やし、俺はこのころまだ関西におったしな?
向井康二
へぇ…ブレザーやってんね。
まじまじと見るつもりはなかったんやけど、やっぱり、可愛い彼女なんやし、目に留まってしまうよね。

その中でも…。
男の子と二人で満面の笑みでピースしてる彼女を見て、ぴたりと止まってしまう。
向井康二
…、まぁそりゃあそうやわな。
天真爛漫でしっかりとしていて、でも時々ちょっとだけ抜けてるようなところがある彼女。

可愛くて、楽しくて一緒にいると安心ができる…そんな存在になっとって。
そんな素敵な彼女やからこそ、過去に付き合ってた人がおっても不思議じゃないって思ってた。


やけど、実際にそれっぽいものを目の前で見るんは、ちょっとだけ話が違う。
まぁ、わざとじゃないんはわかるんやけどね。
向井康二
さて、遅くなりそうやし、先にご飯作っとくか~
食材を順番に取り出して調理に取り掛かる。
お風呂も準備して、いつでもくつろげるようにしといたろかな!



見てしまったもんを払しょくするように、無心で手を動かした。
こんなことを気にしとるようじゃ、俺もあかんね。
分かってたことのはずやのに…。
ひとしきり、ご飯を作り終えたころくらいに鍵が開く音が聞こえて、少し疲れた顔の彼女が帰ってきた。

俺の顔を見た途端に、笑顔を作って笑ってくれる。
無理して笑わんでもええのにね…。

あなた

こーちゃん…ただいま。

向井康二
あなた、おかえり~
ごめんね~と言いながらバタバタと準備を始めようとする彼女を引き留めて、そのままお風呂場に直行。

あなた

手伝うよ?ごはん冷めちゃう…。

向井康二
疲れてるんやろ?
風呂入ってゆっくりしといで?
ごはんはあっためとくから大丈夫やし。
あなた

うぅ…ありがとう、こーちゃん…。

向井康二
ええよ、しんどい時はお互い様よ?
そういうと彼女は、俺にぎゅっと抱き着いてきた。
疲れたら甘えたになるん、めっちゃ可愛いよね。
俺しか知らん彼女の一面なんやけどね。


でも、もしあの写真の彼氏も知っとったら…。
そんなことを考えとったら、抱きしめてた力が強くなったみたいで、腕の中からちょっと戸惑ったあなたの声が聞こえてきた。
あなた

こーちゃん?

向井康二
んえ?
あなた

どしたの?

向井康二
あぁ…ごめん、何でもないよ?
あなた

ほんとに?

少し下から、彼女が背伸びをして首をかしげながら俺に顔を近づけてくる。
めちゃめちゃ可愛いんよ…。
おでこにキスして、体を離すと変なこーちゃんって言われた。
向井康二
ほら、はよ入らな冷めてまうで?
手伝おか?
あなた

いい、やだ!こーちゃんのえっち!

向井康二
言いすぎや!
そう言った彼女にやっと本当の笑顔が戻る。
こっちの笑顔のほうがずっと好きなんよね。
Girl Side



仕事が忙しいと心が荒んでくるんだけど、そんな時でも彼は優しい。
何があったのかも聞かないし、でも疲れてることは察して、先回りしてやらないといけないことをやっていてくれる。


お風呂に入って、のんびりとしてから上がると着替えもちゃんと準備されていて、至れり尽くせりに申し訳なくなってしまう。


関西人の独特なノリと、その優しさでいつも私を笑顔にしてくれるこーちゃんだけど、それだけじゃないのが彼の魅力で。

あなた

やっぱり、かっこいいんだよなぁ…。

こーちゃんの与えてくれる優しさに、甘えすぎている自分がいると思う。
でもそれでいいって、言ってくれるこーちゃんがいてくれて、すごく幸せだと思う。

でもその優しさに甘えすぎてる自分が嫌になるのも否めなくて…。
あなた

こーちゃんいないとダメな人になりそうだなあ…。



髪の毛を乾かしてから、リビングに戻ると、そこには美味しそうな料理が並んでいて、あったまった~?とこーちゃんの柔らかい声が聞こえてくる。


あなた

こーちゃん、ほんとにいつもありがとね…?

向井康二
ええんよ?
あなたが笑顔のほうが、俺嬉しいもん。
今日あった仕事の愚痴を聞いてもらいながら、楽しい食卓を囲む。
こーちゃんとずっと一緒だったら、ずっとこんな風に暖かい時間を過ごせるのかな?
賑やかで、楽しくて、暖かくて笑いが絶えない、そんな幸せを掴めるのかな。
向井康二
あなた?
あなた

えっなに?

向井康二
どしたん?
あなた

んーん、大丈夫。

笑顔でちょっとだけごまかして、ご飯を食べ終えると片付けのために席を立つ。
ごまかした笑顔だって、彼にばれないように、気づかれないように。


向井康二
あなた
あなた

んー?
片付けならやるよ?

向井康二
そうやなくて。
あなた

なに?どしたの?

振り向くと、真剣な顔でこちらを見つめてくるこーちゃんがいる。
まっすぐに少し淡い茶色の瞳が近づいてきて、後ずさりするけど、後ろにはシンク。
前から近づいてくるこーちゃん、んーん、康二から逃げられなくて、諦めて視線だけをそらした。

ぎゅうっと優しい、柔らかい康二の匂いに包まれて、ふっと涙腺が緩みそうになる。
向井康二
ちゃんと言うて?
あなたのつらいこと、苦しいこと。
あなた

でも…、これ以上私こーちゃんに甘えたら

向井康二
俺は、あなたのことを
甘やかせる唯一の存在やで?
無茶ばっかするあなたが、無茶せんように、
いっぱい笑ってくれるようにするんが、俺の役目やんか。
大したことじゃなかった。


たまたま、職場の近くで、高校時代の同級生と再会したこと。
昔話で花を咲かせている最中に、当時付き合っていた元カレの話になったこと。
色々わけがあって彼とは別れたこと。


向井康二
それで、懐かしなって
アルバム見てたん?
あなた

そう。
あの時は楽しかったなって。

向井康二
彼氏といるんが?
あなた

んーん、そっちじゃなくて。
何も考えずにさ、無茶して、怒られて、って。
そういう時間じゃん、高校時代って。

向井康二
…あの頃に戻りたい?
彼の言葉にアルバムから振り返ると、やけに真剣でソファに腰かけていて。
隣りに座り込むと、ゆっくりと顔を近づけてくる。
あなた

こーちゃ…

向井康二
黙って…?
遮るように、甘いキスが落ちてきた。
強引じゃないのに、男らしくて、それでいて優しいキスを何度か繰り返して、唇が離れると、さっきのキスと同じように優しくて甘い笑顔を返してくれる。
向井康二
今が1番幸せやって、
思って貰えるようにするから。
あなた

こーちゃん……

じわりと滲んだ涙は、また彼に気づかれていて、彼の指が拭ってくれる。
向井康二
あなた、愛してるよ?
あなた

私も。
それに、迷いなく、今が1番幸せ。

そう言うと、もう一度甘いキスをくれた。

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