第15話

ifストーリー もう一つの選択肢
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2026/04/13 11:00 更新
ナイフを手に取った。
覚悟を決めるように深く深呼吸した。
手に持ったナイフを、“天馬司”に刺した。
赤黒い血が滲む。
ナイフの先から血がポタポタと垂れ、辺りは血に塗れた。


 
天馬司
天馬司
 ッ⋯⋯はっ、はっ⋯⋯ 


 
呼吸が浅くなる。
そりゃあそうだ。腹を刺したのだから。
ナイフを引き抜いたのが良くなかったのか、傷口から信じられない量の血が流れ出る。
滴るその赤が自分から流れているものだと理解するのを脳が拒む。
頭がグラグラとしてどうしようもない吐き気が襲ってくる。
そんなオレの様子を見て「私」はまた高らかに笑った。


 
天馬司
天馬司
 フッ⋯ハッハッハッハッハ! 
天馬司
天馬司
 本当に君は馬鹿だねぇ? 


 
そう言いながら「私」は近くに寄ってくる。
もう立ち上がれないオレを嘲るように屈みこんだ。
気色の悪い笑顔でオレを見下げながら口を開く。


 
天馬司
天馬司
 私がいれば渋谷連続殺人事件は 
 続くに決まっているだろう
天馬司
天馬司
 そんな事も分からないとはね⋯ 
天馬司
天馬司
 これが今まで主人格を 
 やっていた事が笑えるよ! 


 
満悦そうに笑い続ける「私」の笑い声を聞き、屈辱を感じる。
確かに、オレは今までコイツを殺すために色々な事をしてきたのだ。
今したオレの行動は、今までの事を台無しにしている様なものだ。
だが、それ以上に怖くなってしまったのだ。
コイツを殺せばコイツの罪が全てオレの物になってしまうのが。
コイツを真犯人として殺せば、今までの全てオレのせいだと認めるという事が。
オレさえいなければ、きっとこんな事にはならなかった。
そんな事を思って生きなくてはならなくなるのが、無性に怖くなった。


 
天馬司
天馬司
 ごめん⋯⋯なさい⋯⋯ 
天馬司
天馬司
 生まれてきて⋯⋯ごめんなさい⋯⋯ 


 
次第にオレの意識は薄れていく。
感覚もどんどんなくなっていき、今の自分の体勢すら分からなくなっていた。
ただ頭の中は罪悪感と自責の念で埋め尽くされていた。
それすらも段々と闇の中に溶けていく。
何度も謝罪の言葉を唱えながら、自分の終わりを感じていた。


 
星乃一歌
星乃一歌
 ──さん!司さん! 


 
若い女性の声で目が覚める。
目の焦点が合い始めると、その女性が一歌だという事が理解出来た。
辺りを見回せば、もうあの真っ暗な空間ではない。
私はようやく自由になれたようだ。


 
星乃一歌
星乃一歌
 司さん⋯大丈夫ですか? 
 急に気を失われて⋯ 
天馬司
天馬司
 ⋯ここは一歌の部屋だよね? 
星乃一歌
星乃一歌
 え?はい⋯そうですけど⋯ 


 
もう一度辺りを見回す。
監視されている様子は無い。
誰かが隠れている様子も無い。
この部屋には一歌一人なようだ。
あまりにも好都合な状況に心が躍る。
自然と口角が上がってしまっていた。


 
天馬司
天馬司
 一歌⋯君は本当に素晴らしいよ 
天馬司
天馬司
 百均で私と出くわす運の良さ 
天馬司
天馬司
 そして私が犯人だと突き止める 
 頭の良さを持ち合わせていた 


 
天馬司
天馬司
 だけど、君には仲間がいなかった 


 
怯えた目をする一歌に数歩近寄る。
ポケットから「オレ」が持ってきたナイフを取り出す。
そのナイフを一歌に振りかざしながら言った。


 
天馬司
天馬司
 本当に残念だね一歌 
天馬司
天馬司
 君に仲間がいればここで殺される事も 
 なかったかもしれないのに


 
数日後、また今日もニュースが報道されている。
都内に住む女子高生が自宅で殺害されたそうだ。
女子高生は殺害される前に知り合いの男子高校生を室内に招いていたそうだ。
その男子高校生の名前は「天馬司」。


 
テレビニュース
 『天馬司は行方を眩ませており 
 情報提供を呼び掛けています』 
テレビニュース
 『警察は現在も容疑者の 
 天馬司を捜索しています』 


 
彼が捕まらない限り、この事件は永遠に続く。
渋谷連続殺人事件は終わらない。


 


 

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