ナイフを手に取った。
覚悟を決めるように深く深呼吸した。
手に持ったナイフを、“天馬司”に刺した。
赤黒い血が滲む。
ナイフの先から血がポタポタと垂れ、辺りは血に塗れた。
呼吸が浅くなる。
そりゃあそうだ。腹を刺したのだから。
ナイフを引き抜いたのが良くなかったのか、傷口から信じられない量の血が流れ出る。
滴るその赤が自分から流れているものだと理解するのを脳が拒む。
頭がグラグラとしてどうしようもない吐き気が襲ってくる。
そんなオレの様子を見て「私」はまた高らかに笑った。
そう言いながら「私」は近くに寄ってくる。
もう立ち上がれないオレを嘲るように屈みこんだ。
気色の悪い笑顔でオレを見下げながら口を開く。
満悦そうに笑い続ける「私」の笑い声を聞き、屈辱を感じる。
確かに、オレは今までコイツを殺すために色々な事をしてきたのだ。
今したオレの行動は、今までの事を台無しにしている様なものだ。
だが、それ以上に怖くなってしまったのだ。
コイツを殺せばコイツの罪が全てオレの物になってしまうのが。
コイツを真犯人として殺せば、今までの全てオレのせいだと認めるという事が。
オレさえいなければ、きっとこんな事にはならなかった。
そんな事を思って生きなくてはならなくなるのが、無性に怖くなった。
次第にオレの意識は薄れていく。
感覚もどんどんなくなっていき、今の自分の体勢すら分からなくなっていた。
ただ頭の中は罪悪感と自責の念で埋め尽くされていた。
それすらも段々と闇の中に溶けていく。
何度も謝罪の言葉を唱えながら、自分の終わりを感じていた。
若い女性の声で目が覚める。
目の焦点が合い始めると、その女性が一歌だという事が理解出来た。
辺りを見回せば、もうあの真っ暗な空間ではない。
私はようやく自由になれたようだ。
もう一度辺りを見回す。
監視されている様子は無い。
誰かが隠れている様子も無い。
この部屋には一歌一人なようだ。
あまりにも好都合な状況に心が躍る。
自然と口角が上がってしまっていた。
怯えた目をする一歌に数歩近寄る。
ポケットから「オレ」が持ってきたナイフを取り出す。
そのナイフを一歌に振りかざしながら言った。
数日後、また今日もニュースが報道されている。
都内に住む女子高生が自宅で殺害されたそうだ。
女子高生は殺害される前に知り合いの男子高校生を室内に招いていたそうだ。
その男子高校生の名前は「天馬司」。
彼が捕まらない限り、この事件は永遠に続く。
渋谷連続殺人事件は終わらない。
















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。