第2話

CHAPTER 1
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2020/06/24 14:14

CHAPTER 1

キーンコーンカーンコーン
お昼の始まりを告げる鐘。

さきほど購買で買ったパン。
昨晩、マネージャーから「余ったから持ってけ」と言われて貰ったストレートティー。
スマートフォンとモバイルバッテリーを持つ。

(屋上なら人が少ないから歌の練習ができるな…)
そんなことを思いながら、今日からこの無幻想むげんそう学園高等部に編入した俺ーーー
ヨハン・アーベントロートは薄暗い階段を屋上目指して登っていた。

屋上へ近づくにつれ、歌声が聞こえてきた。
(先客がいるのか??この声の持ち主はどんな奴なんだ??)
声の持ち主への興味半分、持ち主がヤバい奴だったらどうしようという不安半分。
持ち主への興味が勝った俺は、屋上のドアを開けた。

澄み渡る青空に歌声の持ち主がいた。

赤髪混じりの茶色い短髪。
エメラルドグリーンのパーカー。
一般クラスの女生徒である証の紫色のリボン。
そしてーーー
この青空と同じくらい透き通った青い瞳。

ひと目で惚れた。

彼女は驚いた顔で俺の方を見ている。

「綺麗な歌声だったよ!」
「………」
何も言わない彼女に向け、更に続ける。


「俺はヨハン……」
「ヨハン・アーベントロート!!!」
「君は一般クラスでしょ??お名前は??」

「……て」
はじめて彼女が話した。

「辞めて!!!もう関わんないで!」

「えぇっ!?」

予想外の言葉に俺は戸惑いを隠せない。

「いい??私がここにいたのは誰にも言わないで!」
「もう二度と……私に関わんないで!」

叫びにも似た彼女の声。
これだけを伝えたあと、彼女は素早く走って屋上を出ていってしまった。

「俺…悪いこと言っちまったのかな……??」
そう呟いた後に、彼女がいた場所を見て気づいた。

「ノートが落ちてる」

名前には『桜条美乃はるじょうよしの』の字。

「あの子…桜条美乃って名前なんだ…」

美乃に悪いと思いつつ、俺は美乃のノートを捲った。

綺麗な綺麗な物語。
亡き妻を救う為に、自分と出会う前の妻の少女と手を組む青年。
少女に正体を隠して、共に冒険し何度も何度も少女をサポートする。
亡き妻を失う夢に襲われ、最後は少女を庇って死ぬ青年。
その青年への恋心に気づいた少女は青年を救う戦いをして勝つ。
その後2人は結婚して、青年は亡き妻との未来を取り戻した。

(凄い話だ…。これで完結してるのかな??後日談欲しいな…)

俺は午後の授業のことを忘れ、美乃の書いた物語を読んでいた。

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