達也くんへ
多分もうすぐ死ぬから手紙を書くね。
達也くんが大好きでした。もう好きって気持ちは思い出せないけど、好きだったことは覚えてる。ほんとはおれが達也くんを好きなうちに、おれを殺すって約束してほしかったけど、しょうがないね。
あと、あんなこと言ったけど、おれが死んだら新しい恋人を作っていいんだよ。おれはもういないんだから、おれにしばられず幸せになってほしい。
今はもう好きってどんなだかわからないし、達也くんのこと好きと思えない。だけどおれが死んでゆうれいになって、もし感情とかそういうのが戻ってきたら、きっとまた達也くんを好きになる。前はゆうれいなんて信じてなかったけど、こんな意味わかんない病気があるんだもん、多分いるよね。好きすぎて取りついたらごめん。
はるひと
あれから一年、俺は未だにハルが書いた手紙を読み返している。一生に一度のお願いから数日でハルの脳は完全に人間じゃなくなって、ハルは「病死」した。この手紙を見つけたときは死ぬほど泣いたし、情けないけど後追いだって考えた。今読んでも涙が出てくる。
そこで部屋に入ってきたハルに手紙を奪われた。
顔を真っ赤にして怒るハルをなだめながら、ハルが一度死んだときのことを思い返した。
ハルの願いを叶えることはできず、かといって保健所に連絡することもできず、俺は俺を食おうと暴れるハルを縄で縛って部屋に閉じ込めた。無意味だと思いながらも拘束されたハルにご飯を食べさせて、風呂に入れて、頬にキスして眠った。病院にもハルの家族や太我にもハルの死を隠して、廃人みたいな生活を繰り返していた。そしたら突然ハルが大人しくなったのだ。
当時の俺はそれはもう驚いた。止むことがなかった唸り声がいきなり静かになったから。安心とかはなくて、この状態のハルですら俺を置いてくんじゃないかって恐怖でひたすら泣いた。だけどそれから徐々に徐々にハルは理性を取り戻して、感情を取り戻して、言葉を取り戻した。発症から「病死」までと同じくらいの時間をかけて、ハルは人間に戻っていった。
ぼろぼろ涙をこぼしながら、確かめるようにそう呟いたハルを俺は忘れない。
病院に連れてって、そこからさらに検査機関に連れてかれて、最終的にハルは「これは治る病気だった」と言われた。
今までの患者は病死……つまりもう人間じゃないと判断された時点で即処分されてたから、誰もこの事実に気づかなかった。解剖されたり処分されたりそもそも症例が少なかったりで、「病死」してからも生命活動を維持したまま放置されたのはハルが初めてだった。国が「病死」と決めただけで、実際は死んでいなかったのだ。風邪やノロウイルスのように自然治癒するはずの患者を、そうと気づかず危険だからと本当の意味で殺していたのだ。
この病気の治療法(放置するだけだけど)が判明して、ハルと俺は文字通り世間から大注目された。法を犯してハルを隠していた結果のことだから、多少はバッシングも受けた。生まれて初めて記者会見とかいうものをやらされた。
「なんで保健所に連絡しなかったんですか?」って質問に、なぜかハルが
とか答えやがったときは思わず頭を引っ叩いたが、時間が経てば世間の興味は移り変わるものだ。治療法が生まれた奇病のことなんてみんなすっかり気にしなくなった。
今俺の目の前には、耳まで赤くして照れているハルがいる。一年前の、感情が丸ごと抜け落ちた冷たい瞳が嘘のようだ。後ろからハルを抱きしめたら、おずおずと俺の手にハルの手が添えられた。
そう言ったら、ハルは何も言わずに俺の手をぎゅっと握った。手にポタッと水滴が落ちて、ハルが泣いてるのがわかった。
謝ったけど俺はこれからもあの手紙を読むと思う。ハルが隣にいるのがどれだけ奇跡みたいなことか、忘れたくないからだ。ハルの照れ顔を見れること、ハルの手が俺に触れてくれること、ハルの歌をまた聴けること、その全部が俺の心を震わせるのだ。
ハルの声が脳に沁み入る。あの病気がなきゃ気づけなかった幸福が、今日も俺の心臓を満たしている。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。