私が自分の異常に気がついたのは13の時。
赤い目をした四つん這いの鬼が家族を貪り食い、さあ次は私の番だという時だ。
見たことも無い醜い姿で近づいてくるものだから、くるなと言う意を込めて軽く鬼の顔を叩いた。
非力な幼い女の力では化け物に太刀打ちできないことは承知だった。
ところがだ。飛んだのだ。
鈍い音と共に勢いよく吹き飛んだ鬼の頭は、壁にぶつかりぐしゃりと崩れた。
同時に夜明けの陽光が壊された玄関口から差し込み、鬼は灰となり消えていった。
その後は最悪だ。
死んだ父母、妹の体を眺めながら一晩中泣いた。騒ぎに気づいた周りに住む大人が集まって、一通り泣き飽きた頃に3人を庭に埋め、13年間育った家を後にしたのだ。
山に住む祖母の家で世話になりながら、私はあの時の超常現象を確かめたくて、夜な夜な村外れの廃寺や薄暗い竹藪に通い詰めた。
おかげで何かに取り憑かれたと勘違いした祖母が、祓い師を連れてきた時は思わず笑った。
私はもう一度、鬼に会いたいのだ。
今宵は新月、最も暗い夜だ。
真っ暗な竹藪の中を提灯片手に練り歩く。
突然、鼻を刺す嗅ぎ覚えのある臭いが当たりを包む。
血の匂いだ。鬼の匂いだ。
当たりを見渡すと、暗闇の中から若い女の頭を半分咥えた巨体の鬼が音も立てずに這い出てきた。
強くなる血の匂いに思わず鼻を抑える。
鬼は咥えていた頭をバリバリと飲み込むと、ゆっくり話しかけてきた。
おぞましい光景、身の毛のよだつ姿を見れども、不思議と死ぬ気はしなかった。
怪我一つ負わずに鬼を倒せるかもしれない。
頭を飛ばしたあの時から、根拠の無い自信で満ち溢れている。
だから根拠が欲しい。私は強いのかもしれない。
どうだろう、私は強いの?
巨体を揺らしながら向かってくるその鬼は、身体の重さなど関係ないとでも言うような猛スピードだ。
だが真っ直ぐ。私は拳を握り、腰元と自分の顔の前に置き、構える。
思い切り下へ振り落とした拳は、鬼の脳天を割り地面へ突っ伏させた。
鬼の頭は粉々になり、身体は苦しそうにじたばたともがいている。
やはり、やはりそうだった。あの時も今も。
そこからは圧巻だった。
力が分かった私はしばらく呆然と立ちつくしていた。
が、意識ははっきりしていたため、高速で頭を再生した鬼が甲高い雄叫びをあげながら飛びかかってきた事も、その攻撃から私を抱えて避け一瞬で首を落とした赤茶髪の剣士の事もしっかりと覚えていた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。