第9話

8つ目の記憶:正体
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2026/03/31 06:58 更新
ある日、フィシにまた今度とある場所へ行こうと誘われた。
どうやら、海中にその場所はあるようだった。
だが、海中トンネルが開通しており、家からも近いため、行くのは容易であった。
アロ
アロ
……今日ダネ、行コウ!
フィシ
フィシ
フィシに道案内してもらい、トンネルに差し掛かった。
アロ
アロ
意外と整備されてナイネ……コレ、崩れたりシナイ?
「大丈夫なはず」そうフィシは翻訳機に入力した。
数分歩くと、フィシの歌声が聴こえてきた。
アロ
アロ
アレ?フィシって……今は歌えナイ……ヨネ?
だが、確実にこれはフィシの歌声だ。
アロ
アロ
……ア、録音カ……
そう気付くと、ボクは頬を赤らめてしまった。
フィシが少し笑った。でも、どこか悲しそうだった。
アロ
アロ
イヤ、待てヨ……?コノ歌声、フィシが歌ってるノ以外デ聴いたコトアル……ヨウナ……?
そのとき、この世界に来たすぐのことを思い出す。
ショッピングモールでイベントが開催されていた、あの歌手さん。
NEICHEL。彼女の歌声でもある……ような気がする。
そういえば彼女のイベントのとき、フィシを見なかったな……。
用を足した後色々買い物をしたいと言っていたような気もする。だから、途中で会ってもおかしくはない。
だが、会わなかった。
それに、流れる歌をよく聴くと、フィシの作っていた曲とどこか似ている。
もしや、NEICHELとフィシは同一人物なのか……?
さらに、前に見た彼女の電撃引退の話題。
もしも彼女とフィシが同一人物ならば、あのタイミングの引退も理解できる。
いや、ただの考えすぎか。
歌声が似ている人なんて、世界を探せばいるはずだ。
どうやら、ここが目的地のようだ。
大量の方舟はこぶねのようなものが並んでいる。いや、丸いから方舟ではないか。
その船に、多くの人が乗り込んでいる。アトラクションのようなものだろうか?
横を見ると、カウンターに職員さんが立っていた。
職員
こんにちは、ご予約は……って、え⁈
職員さんは二度見、いや五度見くらいする。
職員
ネイッ……⁈いや、見間違えか……?素顔も会議でしか見てないし……
職員
というかあの人はここに残るって言ってたし……あ、そちらのお兄さんはご予約済みですか?
アロ
アロ
ボク⁈
とりあえず翻訳機に入力する。
職員
あー……こっちの言葉はわかるっぽいのでそのまま言いますけど……ご予約済みでないなら帰っていただけると……
「詳しくはボクも詳しくなくて、この方に行こうと言われて来ました」
そう入力した。
職員
あ、もしやここでできることも知らない感じっすかねー……じゃ、軽く説明しときます……
少し弱気な職員さんは、そのまま話を続けた。
職員
なんか、ここがなんか……いやそれも俺詳しくないんすけど……なんかアレらしくて……
職員
んで、そのアレを回避するためになんか最近できた技術で別の世界の別の星へ行っちゃおうって感じなんすよねー……
あー、そういえばテレビでなんかそういうニュースあったかもな。
職員
なんで、大半の人は別の星に移住するっぽくて……
なるほど。
アロ
アロ
フィシは残るノ……?
フィシ
フィシ
……
フィシは少し戸惑いながら頷いた。
アロ
アロ
ジャア、ボクも残るヨ!ダッテ、フィシはベストフレンズだからネッ!
フィシ
フィシ
……!!
フィシは満面の笑みになった。
ずっと、このままでいたい。だが、ボクには他にも会わないといけない人がいる。
だから、進む。元の世界に戻れるように。罪を償いきれるように。
家に帰った。帰りの途中、ファストフードを買ってきた。
ハンバーガーとポテト、ジュース。あまりにもジャンキーである。
フィシが、ふとスマホを取り出した。
動画サービスを開く。そこには、「WELCOME TO THE NEW WORLD!」という曲が映し出されていた。
すると、フィシは何かを思いついたようで、フィシ自身の作業部屋と思しき場所へ走っていった。
咄嗟に、ボクもついていく。
パソコンには楽曲ソフトがついていた。すると、フィシは再生ボタンを押した。
流れてきたのはーー






トンネル内で聴いた、あの歌だった。
アロ
アロ
ソウカ、本当にフィシは……
フィシが、翻訳機に何かを入力する。
「また今度アロさんに曲を作ってあげるね。食べ物はたくさん買ってきたから、少なくとも1年くらいは困らないと思うよ」
テレビをつけたが、砂嵐が吹き荒れているだけだった。
ファストフードを食べている途中、将来の話をすることになった。
食べ物はまだしも電気とか水道とかガスとかはどうするのかとか、2人だけでやっていけるのかどうかとか。そして、ボクはどうしたら元の世界に帰れるか。あとは、前に思い出した記憶の話もした。
そのとき、フィシが急にとあることを入力した。
「そういえば、アロさんって名前忘れてましたよね。せっかくなので、なにか新しくつけます?」
アロ
アロ
唐突ダネェ……マ、イイケド
「せっかくなので、アロさんの使ってる言葉をもじるとかはどうでしょうか?」
アロ
アロ
オ、イイネェ。ジャ、ドンナ意味の言葉がイイとかアル?
「じゃあ、アロさんは素敵な人なので……素敵な場所って意味の言葉とかは?」
アロ
アロ
エーット……ソレだと「まほろば」って言葉があるカラ……
そのままだと、捻りがない。そういえば、あのトンネルにあった複数の船の中に、「ローア」という特別な船があるって聞いたな。ちょうど、ボクの記憶に出てきた船の名前と一緒だ。同一存在なのかはわからないが……。
アロ
アロ
ジャ、ローアもソコに合わせテ……!
アロ
アロ
「マホロア」ッテドウ⁈ウーン、ボクながらイイ名マ……








フィシ
フィシ
……まほ……ろ…あ?
アロ
アロ
⁈⁈⁈エ⁈⁈⁈チョ、タンマ!!!!
思いがけない声による嬉しさで、視界がダイヤモンドみたいに煌めく。
ダイヤの乱反射の中で、フィシが熟したリンゴみたいに頬を染めて泣き笑いしていた。
フィシ
フィシ
……ふふ
アロ
アロ
イヤッ……⁈イヤイヤ……!!アッ……エ⁈⁈
混乱で、言葉が上手く出てこない。
だが、ココロの底にあったのは、喜びだった。単純な感情だったが、これが一番今の状況に合っていると思う。
翻訳機に、フィシが何かを入力した。見ると、そこに表示されていたのは。
「君だったんだね、マホロアは」
「ずっと探してたんだ、歌ってほしくて」

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