冷たい風が、静かに頬を撫でた。
横浜の街は、今日も変わらず騒がしいはずなのに
ーーーこの場所だけ、時間が止まっているみたいだった。
私の手の中には、一輪の白いフリージア。
その花は、どこか不安げに揺れている。
背後から、柔らかな声。
振り返らなくても分かる。
この声の主を、私は知っている。
何気なく答えると、彼は小さく笑った。
わざと知らないふりをした。
本当は、もう知っているくせに。
彼はゆっくりと、私の隣に並ぶ。
その言葉は、優しくて。
けれど、どこか残酷だった。
沈黙が落ちる。
私は花を見つめながら、ぽつりと呟いた。
彼の声が、ほんの少しだけ低くなる。
その瞬間、空気が変わった。
風が止まる。
世界が、静まり返る。
彼は、しばらく何も言わなかった。
ただ、私を見つめているだけ。
やがてーーー
穏やかな笑み。
けれど、その奥にあるものを、私は知っている。
冷たくて、深くて、底の見えない闇。
即答だった。
あなたは、彼の目をまっすぐ見た。
逃げることも、逸らすこともなく。
その一言に、嘘はなかった。
彼は一瞬だけ、驚いたように目を細めた。
けれどすぐに、いつもの微笑へと戻る。
静かに、そう言いながら。
彼の手が、私の手に触れる。
白いフリージアごと、包み込むように。
私は、少しだけ笑った。
その言葉に、彼は黙った。
初めてだったかもしれない。
彼が、言葉を失ったのは。
しばらくして、彼は小さく息を吐いた。
その声音は、どこか優しくて。
ほんの少しだけ、寂しそうだった。
彼は、私の手からフリージアを一本抜き取る。
そして、自分の胸元に差した。
冗談のように言いながら。
けれど、その瞳は――ほんのわずかに揺れていた。
あなたは気づかないふりをして、空を見上げる。
白い花が、風に揺れる。
まるで――
壊れそうな約束みたいに。
それでも。
それでもあなたは、信じていた。
彼を。
その選択が、
どんな結末を呼ぶとしても。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。