夜は、いつも同じ匂いがした。
冷えた鉄と、乾いた土と、遠くでくすぶる火薬。
私は壕の中で膝を抱え、地図を見つめていた。
赤く引かれた線の向こう側――そこが、次の戦場。
「……また、ぶつかるのね」
誰に向けたわけでもなく、私は小さく呟く。
返事はない。それでいい。私は昔から、独り言が多かった。
あなたの下の名前(カタカナ)・あなたの名字(カタカナ)
この国の軍に属する、ただの兵士。
前線に出るほど有能でもなく、後方に回されるほど無力でもない。
だからこそ、生き残ってしまった。
⸻
作戦前夜、私は見張りに立っていた。
霧の向こうに、敵軍の陣営の灯りが見える。
その中に、彼がいることを――私は知っていた。
名前を口にするだけで、胸の奥が静かに痛む。
彼は敵国の指揮官。
そして、幼い頃に私を助けてくれた少年。
この事実を知っているのは、私だけだった。
⸻
まだ戦争が、世界を引き裂く前の話。
瓦礫だらけの町で、私は迷子になっていた。
泣くのが怖くて、声も出せずに、ただ震えていたあの日。
低くて、不機嫌そうな声。
顔を上げると、年の近い少年が立っていた。
そう言いながらも、彼は私の手を離さなかった。
少し間があってから、彼は短く答えた。
それだけだった。
でもその名前は、不思議と心に残った。
瓦礫の陰で、彼は空を見上げながら言った。
私はその言葉を、
ずっと、ずっと信じていた。
現実に引き戻される。
上官の声だった。
返事をしながら、私は知っていた。
その“敵軍”の中に、
もう私を覚えていないラグーザがいることを。
――約束は、叶った。
でもそれは、
一番残酷な形で。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。