第29話

+隣に立てる、その日まで... 14
14
2026/02/18 12:00 更新
いつの間にか彼の傍で意識を手放していたらしい私を迎えに来てくれたちぃに起こされ病室を見渡せば

優しい視線をめいいっぱいに浴びていることに気が付き、ついつい顔が熱くなった



私をお迎えに来てくれた優しい従姉妹と共に帰路に着く

最近はご飯も作る余裕が無くなった私の為にと、今日もちぃが晩御飯を用意してくれていたのだが

やはり思ったように喉を通らず、誤魔化すようにお風呂へと逃げ込んだ
紫月
... ...。
紫月
...なに、してるんだろ...私...
紫月
家族にまで心配かけて...馬鹿みたい
呟きながらもぶくぶくと湯船に沈むが、かといって何が解決する訳でもない

仕方なしに浴室を後にし、しっかりと髪を乾かしてから自室へと戻る

そういえば先程雪さんから、〝もし良ければこれ、貰ってくれないかしら?〟と手渡された包みがあったのを思い出し、鞄からそれを取り出しそっと開いてみれば、中から出てきたのは1冊のノートだった
紫月
ノート?誰のだろ...
パラパラと捲ってみればそこに記されていたのは見覚えのある綺麗な字

隣の席で何度も目にしていたそれは紛れもなく東雲くんの文字で、その内容を見るにどうやらノートの中身は日記の様だった
紫月
東雲くんって日記付けてたんだ...なんだか意外...
紫月
読んじゃっていいのかな...でも雪さんに渡されたんだもんね...いいんだよ、ね...?
紫月
... ...。
紫月
...う、そ...でしょう?
ノートを捲る度、読み進めるうちに私の目に飛び込んできたのは、溢れんばかりに何度も出てくる〝紫月ちゃん〟の文字

確信をつく事は書かれていないが、彼が私に好意を寄せていたのは誰が読んでも分かるくらいに明確で...ついつい驚きから目を見開いた
紫月
...好きだったんなら...なんで私を振ったんですか...

呟きながらもぺらりぺらりと頁を巡れば、私が彼に思いを告げた日の記録が目に飛び込んだ




折角紫月ちゃんが思いの丈を告げてくれたのに、どうしても俺は彼女の隣に立てるほどの人間だとは思えなくて

素直にそれを伝えたんだけど、彼女には上手く伝わらなかったのか、それとも優しい紫月ちゃんは俺の気持ちまで汲んでくれた、のかな?あの子の涙は酷く綺麗で...ついつい零れるのが勿体ないって思ってしまった

今にも壊れてしまいそうなほど繊細で、けれどもとても柔らかい笑顔を浮かべながらも可愛らしく微笑む紫月ちゃんの姿がどうしても忘れられない

...いつか、俺が紫月ちゃんの隣に立つのに相応しいと胸を張って言える様になれたら、その時は...俺からしっかりと思い伝えよう

とっても可愛くて優しい素敵な彼女は、それまで...待っててくれる、かな...




紫月
っ...。
何度も何度も繰り返し同じページを読み返すが、どうしても最後まで読むのに時間が掛かってしまった

ぽたりぽたりと頬を伝って落ちる雫が彼の日記に掛からないように、とぱたりとそれを閉じて目元を強く擦る
紫月
...ほんとに、馬鹿な人...
紫月
...あの言葉が龍翔くんに向けての言葉だったなんて、誰も思うわけがないじゃない...

小さく呟いたその声は

誰に届く事もなく、静かな部屋に溶けて消えた

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