暖かくて、深い眠りの中にいた。
久しぶりに感じるバンチャンさんの腕の中は、あまりにも温かくて、数日間の緊張と葛藤でボロボロになっていた私の意識を、一瞬で深い闇の底へと誘っていった。
あったかい……。もう、何も考えたくない……
そうしてどれくらいの時間が経ったのだろう
カーテンの隙間から差し込む朝日が、眩しくて、目を開けた。
視界に入ってきたのは、作業室のソファ。
そして、私を抱きしめたまま座って眠っているバンチャンさんの穏やかな寝顔だった。
彼は眠っている間も、私がどこかへ消えてしまわないよう、その大きな腕でしっかりと私を囲んでいた。
私は、バンチャンさんの頭の上に浮かぶ数字を、ふと見上げた。
【00:016:22:15:30】
心臓が跳ねた。
昨夜、ここに来る前までは「5年」ちょっとだったはずのバンチャンさんの余命が、一晩で「16年」まで増えている。
ということは。
ほぼ10年。
しばらくバンチャンさんを避けて、接触を断っていた反動なのか、
あるいは、私が求める気持ちが強すぎたせいなのか。
溜め込んでいた私の命は、一緒に眠っている数時間で、バンチャンさんへと流れ込んでしまった。
震える手で、スマホのカメラを起動して自分の数字を確認する。
【29:150:08:45:20】
ついに、30年という時間さえも越えてしまった。
一晩で10年分もの未来を、私は失った。
今までだったら、泣き叫ぶような減り方だと思う。
体だって、昨日とは比べ物にならないくらい変。
指先は前よりもずっと冷たいし、体の奥で重い疲労感が沈殿している。
だけど…
私の腕の中で、スースーと規則正しい寝息を立てる彼の、血色の良い頬。
前まで死の淵にいたのが嘘のように、生命力に満ち溢れた、世界で一番大好きな人の寝顔。
後悔なんて、してない。するはずない…
自分が選んだんだから…
彼がこれから歩むはずの「10年」という月日の中に、私の命が溶けて混ざり合っている。
だから、歌う声、踊る躍動、バンチャンさんが笑う一瞬一瞬の中に、私も存在することができるでしょ…?
私はそっと手を伸ばし、バンチャンさんの頬に素手で触れた。
また数日分の砂時計が、さらさらと音を立てて落ちていく。
尽きるまで、尽くそう。
後悔のないように生きる。
たとえ私の終わりが明日来たとしても、この人の人生の一部になれるなら、私はこの運命を受け入れて
最後まで愛してみせるから。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!