〈jisung side〉
(実験記録)
『2025年11月1日
天気:曇り
気分:良くない
(備考)
港に上がるとき、足を滑らせて海に落ちた。
ケガはなかったけど、全身冷たくて寒い。
ラボに着いたらヒョンがいた。安心した。
ここから先は、ヒョンの身体について記そうと思う。 』
ここまで書いて僕はペンを置き、ヒョンの方を見た。
ヒョンは柔らかいゴムボールを壁に投げている。
ヒョンがボールを投げるのを止め、
僕の方を向いて黙って頷いた。
その目は、僕が知ってる優しいヒョンのものだった。
『実験記録① 25/11/1
最後の鮮血摂取から、およそ12時間が経過。
被験者の気分は「すごくいい」「喉が渇いてる」の2点。
気分の良さ →説1:血液摂取による快楽
説2:身体能力の開花
喉の渇き →説1:単なる水分補給不足
説2:血液を欲している…?
(見解)
ある意味では、この実験は想像以上の成功と言える。
歩くのがやっとだった被験者の身体能力が、
一時はオリンピック選手並みのものに変化した。 』
僕が頷くと同時に、ヒョンが走り出す。
そのまま本棚の上に登り、
遠く離れたプロジェクターの縁に降り立った。
そのまま両腕で部屋を伝い地面に戻ってくる。
ストン、と軽やかに着地したヒョンは、
どこか興奮しているようだった。
そこで僕たちは同時にハッとした。
飛んでる…?
そう言いつつも、僕たちの目線は
自然とラボの中央に向いていた。
そう言いながら、ヒョンはタッチパネルに触れた。
3、3、8、9、2、4…
ビープ音が鳴り、コウモリたちが一斉に飛び立つ。
そしてそれと同時にヒョンは解除したドアを開く。
僕は自分の見てる光景が信じられなかった。
何百羽ものコウモリたちは、
ヒョンを拒まなかった。
むしろ歓迎しているようにも見える。
コウモリが羽ばたきながら作る輪の中心で、
歓迎を受け入れるように両手を広げるヒョン。
その初めて見る表情に、
僕の中の何かが動かされた気がした。
ヒョンはコウモリたちの方へ手を伸ばし、
そのうちの1匹がヒョンの腕に止まる。
また1羽、また1羽。
記録するな、と言われたけど
これだけは…と思って僕は日記に手を伸ばし、
感動で震える手を抑えながらペンを走らせた。
『 被験者はこの変化を、喜ばしく思っている。 』














編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。