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第30話

✧ Epilogue
55
2026/03/16 09:00 更新

 5年越しに会えたという嬉しさと、成長したバセを見れた喜び。それにそんな格好をしてここに立っているということは、バセは探偵になれたのだろう。
 思わず喜びと感動で顔がほころんだ。

「……元気そうで良かった」

 自然と声が漏れる。こうして顔を突き合わせるのは何年ぶりだろう。今にも飛びついて、思い出話を共有し合いたかった。

 あのね、私ここ数年でいろんなことを経験したんだよ。Aegisさんにみっちりしごかれてね、あと、異世界からやってきた聖騎士と出会うとかいうとんでもない奇跡にも遭遇したんだよ。それにね、配信活動なんてものも期間限定でやってみたんだ。とっても優しいリスナーさんばかりで、すっごく楽しい1ヶ月間だったんだよ。


「Ally、お前、凛桜だよな?」

「うん。……バセは、探偵になったんだね」

 バセからの質問と、私の返答は至ってシンプルなものだった。話したいことはいっぱいあるはずなのに、口から出てくるのは極一部だけ。お互いが一番確認したかったこと、それだけが、自然と言葉となった。
 バセの顔を観察する。5年ぶりに会えたことに感極まって、思わず嬉し泣きをしてしまいそうだった。

「凛桜、お前はなんで……」

 バセが何か問いかけようとして、言葉に詰まる。
 なんで、か。何で怪盗なんかしているんだろう、って質問したいんだろうな。
 バセなら分かってくれるかな。あんな嘘みたいな幻想的な話だったけれど、バセなら信じてくれるのかな。


 そこまで考えたタイミングで、足音が聞こえる。警備員がこっちに向かってきているのだろう。

 そうだ、今は再会を喜んでいる場合じゃない。今の私は怪盗で、バセは探偵。
 事情を話して協力してもらう? そんなのはありえない。私は探偵になったバセを邪魔したくはない。

「……ごめんね、もう行かなくちゃ」
「……ぇ」

 バセの表情が一変する。そんな泣きそうな顔しないで。分かるよ、色々話したかったよね。バセからしたら疑問が残るよね。ごめんね。でも巻き込みたくないんだ。邪魔したくないんだ。バセには探偵として活躍して欲しいんだ。間違っても「怪盗の協力者」なんて立場にはさせたくないよ。
 だってバセは苦労した末にようやく探偵になれたんでしょ? そんなのを邪魔したくない。きっと探偵という立場で仲良くしている相手もいるはずじゃん。幼馴染だからって、ただそれだけの事実で今のバセを破壊したくはない。
 それに、「バセは巻き込まない」って5年前のあの時、決めたじゃないか。
 覚悟を決めなきゃいけない。

ううん、こうじゃないよね

 じゃあ、先程までの接し方は違う。幼馴染としてはもう接さない方が良いのだろう。怪盗として、探偵の前に立ちはだかるべきだ。

 足音が大きくなった。警備員がもうすぐそこにいるのだろう。時間がない。
 私はどうにか、Aegisさんのような余裕ありげな、大人っぽいような、謎めいた作り笑いを浮かべ、恭しくお辞儀をした。

「……初めまして、探偵くん。私の名前は怪盗Ally。これからよろしくね?」

 バセが明らかに納得のいっていない悔しそうな顔に変わる。元々泣きそうだった顔が、更に泣きそうになってしまった。確かに申し訳ないことをしたなと思う。


 そして、もう一個、残る問題があった。よくよく見たら、ムーンストーンには超小型の高性能なGPSが取り付けられていたのだ。
 時間の無い今、このGPSを破壊することは不可能だ。今この場所から脱出することはできても、ムーンストーンを持っている限りは私の場所が判明してしまうから、永遠に追いかけられることになる。
 ここまで追い詰められた今なら物理的に不可能だろう。ムーンストーンは今ここで諦めて置いていくしか無い。


「……このムーンストーンは探偵くんにあげるっ」


 沈んだ顔をするバセの手のひらに、ムーンストーンをぽん、と置いた。まるでAegisさんがおばあちゃんのダイヤモンドを取り返して私の手のひらに置いた時のようだな、と思う。


 そして煙幕を投げ__私はその場を去った。
 またね。またいつか、会おうね。

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