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第10話

月から滴る紅は宇宙を飲み干す
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2025/10/30 13:45 更新


「ねえカゲツ。今日の任務、毒の訓練にしてみましょうよ!」

「……おい、タコ。ほんまにこれ、大丈夫なん?」

 星導はいつも通り、軽く笑って肩をすくめた。

「安心してください。俺が依頼でもらった安全な毒です。」

「タコの安全ほど危ない時ないんやけどな……」

 そう言いながらも、カゲツは瓶を受け取った。
 忍としての誇りと、同期としての信頼が、その手を動かす。

 透明な液体が、月光を反射して淡く光った。


一口。


 喉を通った瞬間、焼けるような熱が体内を駆け抜けた。


「……っ、ぐ、あ……?!」

 カゲツの膝が崩れる。

 胸の奥から、こみ上げる鉄の味。

 口元を押さえた手の隙間から、紅のしずくが滴る。


「カゲツ?!カゲツしっかりしてください!」

 星導が駆け寄る。

 その腕でカゲツを支えると、背中がびくびくと震えていた。

 息が荒く、唇が青白い。

 だが、星導の目はどこか冷静だった。




 冷静すぎた。




(……血。綺麗だな。)


 胸の奥で、何かが静かにざわめく。

 訓練のつもりだった。

 なのに、目の前で苦しむ同期の姿に、興奮にも似た感情が湧き上がる。

 カゲツが血を吐きながらも、無理やり笑う。


「……ほらな。言うたやん……!タコのたぶんは信用したらアカンって。」

「……はい。そうでしたね」」


 星導は微笑んだ。


 その笑顔の裏に、罪悪感も後悔もなかった。


 代わりに、熱がこもった視線があった。


「……でもこうやって血を吐きながら笑うカゲツ……なんか、可愛いですよ♡」

 カゲツは目を見開いた。

 次の瞬間、再び咳き込み、血が星導の手の甲を濡らした。


「……何言うてんねん、アホか……!」


「だって、ほんと綺麗だよ、カゲツ。」


 星導の声は優しく、けれどどこか壊れていた。

 支える腕に力を込めながら、彼はその赤を見つめ続ける。

 床にこぼれた血が、光を浴びて妖しく輝いた。


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