前の話
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高校の校舎二階、空き教室。
今は、三時間目の授業中。
幼なじみのソウとコソコソと密会している私は、首元に噛み付く彼の体を、たまらず強く押し返した。
やっと離れたソウは、不満げに口元を自身の指で拭う。
そこには、真っ赤な鮮血が付いている。
およそ人には似つかわしくない彼の大きな犬歯は、スッと人並みのサイズに戻っていった。
このどうしようもない私の幼なじみは、やっかいなことに、『ヴァンパイア症候群』を発症している。
ソウがこうなったのは、今から三年前、私たちが中学二年の時だった。
犬歯が大きくなると、異性の血を吸いたい衝動に駆られてしまい、実際に血を吸うまで治まらないらしい。
母親も彼女もいないソウには、頼れる相手が幼なじみの私しかいなかった。
何がきっかけでそうなるのか、分からない。
だから、そばを離れるわけにはいかない。
返事が聞こえなくて、空き教室の扉を開けながら、振り向く。
そこには、ニコニコと笑顔のソウがいた。
その言葉に気を良くしたのか、廊下を歩きながらソウは後ろから抱きついてきた。
私がこんなに真剣に考えているのに、当の本人はのんきそう。
普通は、逆だと思うんだけど。
相変わらずニコニコと笑う幼なじみは、私に抱きつく力をギュッと強めて、口元で笑った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!