第5話

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2022/09/04 05:59


  もうみんな帰ったのか 、
  静まり返った廊下に
  私と高橋くんが並んで歩く 。


  会話はなくて 、手先が冷える 。


高橋 「 降ってきてもうたな 、雪 。 」


  昇降口 、沈黙を破ったのは高橋くんで 、
  薄黒い空から白い雪が落ちてくる 。

  昨日積もった雪は
  汚く溶けてまだ残っているのに 。


高橋 「 傘 、持ってる ? 」


あなた 「 持ってないや 、
    これくらいなら大丈夫なんじゃない ? 
             じゃ 、また明日 。 」


  お願いだから 、これ以上私を混乱させないで 。
  今の私に近づかないで欲しい 。

  彼を避けるように早足で学校を出る 。
  肩に降りかかる雪が冷たい 。

  変な意地でマフラーは私の手に持ったままで 、
  首には巻けない 。


  首筋に落ちる雪が嫌いだ 。



高橋 「 待って 。」


  後ろから少し息の切れた声 。
  私の頭上にはビニール傘がさされてる 。


高橋 「 職員室で借りてきたし 、
     一緒に帰ろ 。 
     てか 、なんで先帰んの 。 」


あなた 「 なんでって 、
    私たち一緒に帰る約束してないいでしょ ? 

    それに 、このくらいなら傘いらないから 。
               じゃ 、私行くね 。 」


     やめてほしい 、今の私に構わないで 。
     きっと八つ当たりしてしまう 。


高橋 「 ならせめて 、これ使って 。 」


     はい 、と差し出された傘 。
     


あなた 「 これは高橋くんが借りたんでしょ 。
            私はいらない 。」



高橋 「 ええから 、
     女の子は体冷やしたらあかん 。」


    これも 、と
    シンプルな黒のマフラーを私の前に出す 。

    馬鹿じゃないの 、
    私手にマフラー持ってるんだよ 。


高橋 「 ほら 、 」


   一歩私に近づき 、んっ と
   半ば強制的に傘を私に持たせると 、

   冷えた私の首筋を優しくマフラーで包み込む 。



あなた 「 っ 、なんで 、なんでキスしたの 。」


高橋 「 キスしたら 、
     頭ん中の半分とまで言わんとも俺になるやろ 。

     今日の夜 、ベッドの上で
     あいつのことで泣く涙が

     俺のキスのせいで少し減ったらええなって 。」



    なんで 、高橋くんがそんなこと気にするの 。


あなた 「 っ 、馬鹿じゃないのっ 。
           本当に 、ばか 。」





    冷たい風に当てられた顔は冷たいのに 、
    目頭だけが熱くなって 、

    生温い涙が冷えた頬を伝う 。

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