もうみんな帰ったのか 、
静まり返った廊下に
私と高橋くんが並んで歩く 。
会話はなくて 、手先が冷える 。
高橋 「 降ってきてもうたな 、雪 。 」
昇降口 、沈黙を破ったのは高橋くんで 、
薄黒い空から白い雪が落ちてくる 。
昨日積もった雪は
汚く溶けてまだ残っているのに 。
高橋 「 傘 、持ってる ? 」
あなた 「 持ってないや 、
これくらいなら大丈夫なんじゃない ?
じゃ 、また明日 。 」
お願いだから 、これ以上私を混乱させないで 。
今の私に近づかないで欲しい 。
彼を避けるように早足で学校を出る 。
肩に降りかかる雪が冷たい 。
変な意地でマフラーは私の手に持ったままで 、
首には巻けない 。
首筋に落ちる雪が嫌いだ 。
高橋 「 待って 。」
後ろから少し息の切れた声 。
私の頭上にはビニール傘がさされてる 。
高橋 「 職員室で借りてきたし 、
一緒に帰ろ 。
てか 、なんで先帰んの 。 」
あなた 「 なんでって 、
私たち一緒に帰る約束してないいでしょ ?
それに 、このくらいなら傘いらないから 。
じゃ 、私行くね 。 」
やめてほしい 、今の私に構わないで 。
きっと八つ当たりしてしまう 。
高橋 「 ならせめて 、これ使って 。 」
はい 、と差し出された傘 。
あなた 「 これは高橋くんが借りたんでしょ 。
私はいらない 。」
高橋 「 ええから 、
女の子は体冷やしたらあかん 。」
これも 、と
シンプルな黒のマフラーを私の前に出す 。
馬鹿じゃないの 、
私手にマフラー持ってるんだよ 。
高橋 「 ほら 、 」
一歩私に近づき 、んっ と
半ば強制的に傘を私に持たせると 、
冷えた私の首筋を優しくマフラーで包み込む 。
あなた 「 っ 、なんで 、なんでキスしたの 。」
高橋 「 キスしたら 、
頭ん中の半分とまで言わんとも俺になるやろ 。
今日の夜 、ベッドの上で
あいつのことで泣く涙が
俺のキスのせいで少し減ったらええなって 。」
なんで 、高橋くんがそんなこと気にするの 。
あなた 「 っ 、馬鹿じゃないのっ 。
本当に 、ばか 。」
冷たい風に当てられた顔は冷たいのに 、
目頭だけが熱くなって 、
生温い涙が冷えた頬を伝う 。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!