※いつもと違って文字ばっかりです
読みにくかったらごめんなさい🙏
そっけない
JIN side
しとしと、と雨が降りしきっている。
窓に当たるその粒の音を遮断するために、目を閉じて、本来聞きたい音に耳を澄ます。眠たいわけではない。
いつも彼女の声は刺激的で、僕にとっては一つも漏らすことなく聴きとめて、胸の中の宝箱にしまっておきたいぐらいに大事な音たちだ。
だけど今日は、生憎の雨な上に、運悪く窓際の席に座っているせいで、いつものボリュームの半分ぐらいしか聞こえてこないから、最悪だ。
当の本人は、そんなの全くつゆ知らず。
あぁ、梅雨だからつゆ知らず。
僕ってばまた話が逸れてしまうじゃないか。
頭の回転が速すぎて、時々自分の気持ちを追い越してしまう。くそ。
当の本人は、僕のそんな最悪な気分なんて気づかない様子で、少し悦に入ったような声色で、弁を振るう。
あの薄いピンク色の唇の隙間から、彼女の大事な音たちが粒となって、教室の生徒が座る上空へと弾かれたように飛び出していく。
跳ね上がって、そのキラキラした粒をキャッチして回りたいぐらいに、僕の気持ちは踊っているけれど、それに反して僕はまだ目を閉じたまま、雨の音と戦っている。
批判めいた様子で彼女がそう言うと、ふぅと溜息を吐いた。
目を閉じていてもわかる。
彼女のその表情がどんなに美しいか。
古の時代に思いを馳せて、彼女も僕と同じように目を閉じただろうか。
今日の彼女の瞼の色は、何色だっただろうか。
確認したくて、うっすらと目を開くと、予想に反して彼女の瞳は開いていた。
そして、呆れたような目で僕を見ていた。
今のは僕に言った言葉なのだろうか。
一度、二度、瞬きをしてみるけれど、やはりその視線はこちらへ向いていて、そして、一歩、二歩、歩みを進める。
まずい。
寝ていたわけではないし、むしろ熱心に聴いていたのに、それを、どう説明すれば理解ってもらえるか、その術が僕にはない。
口が渇いていく。
助けてくれ、誰か。
その願いも虚しく、彼女の室内履きの低めのヒールがコツンコツンと近づく音がする。
意地悪そうな顔をしたって、チャーミングなだけの彼女が、僕の席のすぐそばで立ち止まって僕を見下ろす。
好きです、先生。
見下ろす彼女の表情に、僕の心の中はその言葉で埋め尽くされる。
好きなんです、先生。
クスクスと教室内に、笑う声が聞こえる。
黙ってくれ。
聞こえなくなるじゃないか、彼女の綺麗な声が。
彼女の細い華奢な指が、僕の机の上の教科書に伸びてきて体を傾けた瞬間、耳にかけていた髪がはらりと落ちた。
そのごくわずかな音さえ、僕には大事な宝物になる。
きちんと、零れてしまわないように宝箱に鍵をかけてから、僕は立ち上がった。
立場が逆転して、今度は僕が見下ろす。
示されたそこを、上擦らないようにゆっくり丁寧に読み上げ始めると、彼女が満足そうに頷いて僕の横を通り過ぎていく。
今度は僕の声を、きちんとあなたの宝箱に収めてほしい。
そう願いながら、早口にならないように、読み上げていく。雨の音に負けないように、大きな声で。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。