第39話

チョコを渡す隙がない!
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2024/02/06 12:00 更新
《密会 作:はっすん》

「今日みんなでカラオケ行くんやけど、氷雨も行かへん?」

「ごめん、僕これから用事があって」

いつ頃からだろう。
氷雨が放課後俺達の誘いを断るようになったのは。
午後の授業が終わると毎日何処かに出掛けているようなのだ。
それは多分毎回同じ場所。
聞けばいい事なのに、聞いちゃいけないような気がして…触れてはいけない氷雨の一面を知ってしまうのが怖いのだ。

「氷雨、最近いつもあぁだよな。何処に行ってるんだろう。着いて行ってみない?」

好奇心旺盛な友人は、そう言うと氷雨のあとを追った。
1人で行くのは怖いけど、2人なら…そう思い、俺も着いて行ってしまった。

校舎を出てから40分ぐらい歩いただろうか、気付けば俺達は山道を歩いていた。
奥へ奥へと進んで行くと古い洋館が現れ、氷雨は慣れた手つきで門扉を開けた。

「氷雨がいつも来てたのって、此処だったんだ」

友人は氷雨の秘密を暴いたような気分になって楽しんでいるようだ。
そして、庭から部屋の中の様子を見てみようと提案してきた。
足音を立てないように庭に忍び込むと大きな窓があり、少しだけ開いていたのでそこから覗き見する事が出来た。
リビングのソファの背にもたれて足を組んで座る御殿場先輩、隣りには氷雨が膝を揃えてもじもじしながら座っている。
俺達は2人の会話に耳を澄ませた。

「ご主人様、あの、これ…」

氷雨は御殿場先輩に、おずおずとリボンがかけられた小さな箱を渡している。

「どうした氷雨。中身は何だ」

「チョコレートです。今日はバレンタインなので」

「そうか。すっかり忘れていたよ」

先輩は箱にかけられたリボンを解くと氷雨の左右の手首を合わせて縛り、蝶々結びにした。

「ご主人様、何を…?」

「食べるんだよ、おまえを」

「ご主人様っ、やあっ…」

先輩は氷雨に口付けながらシャツのボタンを外していくと、チューブに入ったチョコレートソースを何処からか取り出し、手に持った。
そして氷雨の胸元に垂らしていくと愛おしそうに舐め始めた。

「ひあッ、ごしゅじんさま…っ」

「美味しいよ、氷雨のチョコレート」

…《はっすんの妄想終了》
氷雨
はっすん?おーい、おーい
大橋
あっ、ごめん、ぼーっとしてたわ
今日は明日のバレンタインの為にはっすんにチョコレートの作り方を教えてもらおうと思って、学校終わってからウチに来てもらっているんだけど、どうもはっすんの様子がおかしい。
さっきから何か考え事をしているようで、僕は色んな角度からはっすんをガン見していたんだけど上の空なんだ。
体調が悪いのかな、心配だよ。
氷雨
はっすん、大丈夫?
大橋
ごめん、久々のチョコレート作りやから、レシピ思い出してただけ。さぁ、作ろうか
はっすんは僕の頭をポンポンすると、生カカオ豆をボウルにあけた。

先輩は辛いものが好きという事だったので意表を突いて白菜でキムチを漬けようと思ったのだけど、はっすんにそれはバレンタインじゃない時にやろうと止められて、チョコレートを作る事になった。
どうしてもライバルと差をつけたい僕はカカオ豆から作るレシピを希望した。
しかしこれが予想以上に大変だった。
豆を洗いフライパンで炒めたあと皮を剥き、すりこぎですり潰す。
ペースト状になるまで潰したら鍋に入れて湯煎する。
その後すごい量の砂糖を入れて練り込む。
滑らかになるまで混ぜないといけないらしく、はっすんも手伝ってくれて交代で延々と混ぜていたら夜になってしまったのではっすんは帰ることになり、その後も1人でゴリゴリと混ぜる。
納得いくまで混ぜていたら夜の12時になってしまい、眠い目をこすりながらキッチンをぼおっと眺めていると、魔法のスパイスが目に映る。
七味唐辛子…。
これ先輩が好きなやつだ!いいこと思いついた、と興奮しながらササッとチョコの上から振りかける。
よく練り込んで型に流し入れ、冷蔵庫で冷やす。
あとは明日型から外して詰めるだけだ。
初めての手作りチョコレート。
先輩、喜んでくれるといいな…。
そして朝になり、早起きして冷蔵庫からチョコレートの型を取り出す。
うん、固まってそれらしくなってる。
チョコを型から外して詰めてラッピングしてよしっ、完成。
急いで身支度を整えて家を出る。
氷雨
先輩、おはようございます
倒理
おはよう
いよいよ…いよいよだ、愛のメッセージとともにチョコレート渡すぞ。
氷雨
あの、せんぱ…
「御殿場君」

聞き慣れない声が耳に入ると、急に3人組の女子が来て先輩を囲んだ。 
先に渡しなよ、とかなんとか言って順番を譲り合っている。
ま、まさかこれって…。

「御殿場君、これバレンタインのチョコレート。良かったら、食べて」

1人の女子が先輩にチョコを渡すとあとの2人も続いて先輩に押し付けるように渡す。
渡し終えると3人の女子は晴れやかな顔をして去って行った。
氷雨
せ、先輩モテますね…
チョコを貰ったからといって喜んでいる様子も無く、表情も変えず淡々と鞄にチョコを入れる先輩。
冷静沈着な先輩に反して僕の顔はひきつり戸惑いを隠せない。
誰よりも先に渡そうと思ってたのに…。

もしかしたら下駄箱にもチョコが入っていたりするのだろうか。
不安になった僕は昇降口で先輩と別れると、気付かれないように少し離れた場所から様子をうかがった。
そして先輩が下駄箱を開けた。

どさどさどさっ

溢れんばかりのチョコがいっぱい落ちてきた…!
1つずつ拾って鞄に入れる先輩。
鞄に対してその量、入りきらないんじゃないの…
エコバッグ貸しましょうか、と頬を赤く染めた男子が話しかけている。
なんで顔赤いの?!この人も先輩のコト好きなんじゃないの?!
先輩、こんなにモテるんだ…。
どうしよう、ここまでライバルが多いとは思わなかった。
心のどこかで感じていた浅はかな余裕と自信は塗りかえられ不安へと形を変える。
先輩、僕の想いは届きますか…?

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