昼下がりの屋上、見渡す限りの青い空。
今日もこうして氷雨と2人、ランチタイムを過ごせる事に幸せを感じる。
氷雨の為に多めに詰めてきたタコさんウインナーを差し出すと喜んで手を伸ばし、とびきりの笑顔でモグモグと頬張る。
俺はこの笑顔が見たくて毎朝早起きをして弁当を作るのだ。
氷雨は口の端にご飯粒をつけたまま、きりっとした顔つきで俺に言った。
もしかしたら…?
この言葉に隠されている意味は何なのか。
氷雨の中では先輩はそれほどチョコをもらうイメージは無いのだろうか。
まさかの手作り…。
かなり気合が入っているようだ。
氷雨は、すくっと立ち上がった。
俺は座ったまま闘志に燃えた勇敢な姿を見上げていると、彼の視線がこちらにおりてきた。
俺も意を決した顔つきで頷いたあと、氷雨の口に付いたご飯つぷを取り戦場に向かった。
氷雨を先頭にして先輩の教室に向かう。
まだ見ぬ敵に勘付かれてはいけないからとの理由でなるべく足音を立てず隠れるように歩を進める。
いきなり先輩に気付かれてはいけないとの事で、彼はそっと教室を覗く。
俺は後ろで息を潜めて見守る。
後ろを振り向くと立っていたのは隣りのクラスの美影君だった。
そういう美影君こそ3年のフロアで何をしているのだろうか。
氷雨は何故か美影君に謝り納得するとまた静かに教室を覗いた。
つけてきただけって何?
えっ、美影君ってストーカー…?
俺達の不審な行動に気付いた穿地先輩が不思議そうに問いかける。
あ、バレちゃったと照れながら氷雨が教室に入った。
窓際の1番後ろの席の御殿場先輩が氷雨に視線を向け、先輩の前の席に座る京本先輩もこちらに体を向ける。
小さく首を横に振る氷雨。
ストーカーの次はセクハラ?
氷雨はみんなに狙われてるんか?
そうだったのか…この慌てぶり、氷雨も知らなかったと見える。
しかし、この流れでどうやって先輩のチョコの好みを聞けばいいのやら…。
何かきっかけになるものはないかと御殿場先輩の周辺をくまなく目で探る。
まずは机の上に置かれているタンブラーが気になった。
意外な答えだった。
ご主人様が白湯男子だったとは。
もしかしたら健康志向なのかもしれない。
氷雨が有難うと言わんばかりに俺に目配せをする。
えっこれチョコ作りに有力な情報なんかな?
バチバチと火花が散る音がする。
穏やかな空気は一転、そういえば我々はライバルなのだ。
俺だって氷雨の事大好きなんやから!
みんな負けたくない気持ちは同じで、誰が1番氷雨を好きか勝負しようという事になった。
ニヤけながら氷雨の顔を覗き込む京本先輩に刺激された美影君が騒ぎ始めた所で昼休憩が終わるチャイムが鳴った。
そういえば肝心な御殿場先輩をメンバーに入れるのを忘れていた。
ふと御殿場先輩を見ると黙ったまま眉間にシワを寄せ、刺さるような冷たい視線を我々に向けていた。
氷雨はペコリと頭を下げると俺の手を掴んで走って教室を出た。
チョコ作りのヒントを得たらしい氷雨は不敵な笑みを浮かべた。
息を切らしながら走る彼の表情はどこか自信に溢れていた。
先生に用事を頼まれて手伝っていたら帰るのが遅くなってしまった。
明日は先輩が受験の日で会えないから今日は一緒に帰りたかったな、と思いながら下駄箱から靴を取り出していると後ろの方でも下駄箱を開ける音がして人の気配を感じた。
靴を履き顔を上げると先輩が歩いているのが見えて思わずあっと声をあげた。
さっき聞こえた音は先輩だったようだ。
良かったぁ…受験の応援、メールで伝えようかと思ってたけど今会えたから直接言える。
先輩辛いものが好きなんですね、なんてあたり触りのない会話をしながら感情を刺激しないように歩く。
試験を受ける本人よりも、なんだか僕の方が緊張しているみたい。
家の前に着くと、いよいよ先輩にエールを送る。
いつも僕を送り届けるとすぐに帰ろうとするので、歩き始めるその前に、先輩と向かい合うように立ち両手を掴んで引き留めた。
僕は先輩の両手をぎゅっと握り、応援本気モードの顔で先輩を見つめた。
よしっ、次は本気の応援ミッションその2だ。
僕は目を瞑って背伸びをし、先輩の顔に近付いた。
唇に触れたいけどあと少しで届かず踵を上げて背伸びを繰り返す。
必死に近付こうとする僕を見て先輩がクスッと笑う。
ちゅっ
僕から頑張ってのちゅーをするハズだったけど、先輩が僕に唇を寄せて、頑張るよのちゅーをしてくれた。
あ、のせられてまた外でしちゃった、と呟きながら先輩は歩いて行った。
不意打ちのキスに顔が、カラダが熱くなる。
唇をそっと触りながら優しい感触を思い出す。
もっとミッション増やしておけば色んなコトが出来たかな、なんてちょっぴりよこしまな事を考えながら先輩の後ろ姿にエールを送った。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!