朝。ハーツラビュル寮。雑談室。
机の上にある───青緑の林檎。
誰が置いたのだろうか。
それは食べかけで、何故。ではなく汚いな、という感情が先に来る。
いつもと同じだった。
声も、態度も、見た目も、全部。
けれどそのリンゴを見た瞬間、トレイの時間が止まった。
いつになく真剣だった。
だから、だからそれなら仕方ないなとその場を離れた。───その行動で、その日の昼に後悔するとは知らずに。
昼。皆が食堂でお腹を空かせ、席を探している時間。
彼──トレイだけがそこに居なかった。
普通の生活って飽きますよね。
#監督生の故郷にある曲 #転生林檎 #自称普通の男
ハイテンポな間奏の曲の画面に映ったのは、まだ幼い──6〜8歳ほどだろう──トレイ・クローバーと、地面に置かれた“青緑の林檎”だった。
無理もない。朝の雑談室とは言っても、まだ6時にもなっていない時間だったのだから。
真っ白な空間から薔薇の王国のどこかだろう場所に変わり、真っ黒のフードを被った男か女か、人間か妖精かも分からない人から先程の青緑の林檎を買っていた。
そんな会話をしていると、また場面が切り替わる。
そこには先ほどの幼いトレイが表彰台のような場所に笑顔で立ち、周りに賞賛されている姿だった。
綺麗な、もはや胡散臭いと感じていた笑顔はその瞬間歪み、まるで自分が世界の中心だ、とでもいうような笑みとも取れる歪な笑顔を作った。
場面は更に変わり、彼等を横から見るという構図になった。
そこにいるのは───
そこにいたのは、彼に背を向けたのは、ケイト、レオナ、ヴィル、ルーク、イデア、リリアだった。
後ろを向き──視聴者から見れば左を向き歩いて行った彼らを無視し、アングルはトレイに寄せられる。
そこにいたのは、諦めとも虚しさとも、悲しさとも取れる、似たような、けれど全く違う感情に支配される顔だった。
───林檎を頬張った。
そこには今より老けたかな?というサイエンス部と似た──つまり、実験の際に着るような白衣を纏ったトレイだった。
キラキラと輝く瞳はどこまでも純粋無垢で、なるほどこれは。研究に人生を費やしているのだろう。
そう感じさせられるような目だった。
先程では異なり、その目は絶望、怒り、裏切りなどの感情で支配され、先程の面影は全く無かった。
そんな彼の前、後ろ、右、左。どこからでも老若男女問わず悲鳴が、潰される音が、爆発音が轟く。
その中にはジャック、アズール、ジェイド、エペル、オルト、シルバーの声も混じっていて。
彼は、その中心で。
爆破される
と、
共に。
───林檎を頬張った。
次の瞬間にはデフォルメされたトレイが機械で左へ左へと運ばれ、
グチャ。
黒の血飛沫が飛ぶ。
グチャ。
真っ黒な血飛沫が飛ぶ。
場面が変わり、トレイが走り出した。
走って。
走って。
走って。
また死んで。
「 」
叫んで。
転んで。
転んで。
転んで。
諦めたくなって。
「 」
殺して。
────林檎を頬張った。
今よりも数年若い、まだ10代前半だろうトレイが様々な人種の彼等彼女等に、ハーツラビュル寮生を始めとしたリドル、ラギー、フロイド、ジャミル、マレウス等に期待の目を浴びせられていた。
それは後光の効果もあるのだろう、まるで、まるで神のような…もしくは、それ以上のナニカのようにも見えた。
その目はどこか凪のように静かで。
それに対しトレイは満足気に目を細め、口角を上げ、皆の頭を撫でた。
事後、なのだろう。
とてもじゃないが人には見せられないような風体をしていた。
ソレにどこか性的に感じた者もいるようで。そんな自分に自己嫌悪したのか、吐いている者も出始めた。
まさに地獄絵図である。
静かな目は空を見上げ。
口は自称気味に笑い。
前を向き。
────林檎を頬張った。
今の倍ほどの年齢、まぁ世間で言うイケオジに足を突っ込んでいるトレイが映った。
彼はお世辞にもオシャレ、という服装ではないが、それでも威厳の感じる容姿だった。
小さな子供達の、エース、デュース、カリム、セベクの頭を撫でるその姿は聖母でも神でも、ましてや女神でもなく。
それよりも近い。
けれど手の届かない場所にいる彼はきっと、子供達にとっては自分の王のような、絶対的な存在だったのだろうことが伺えた。
燃えていた。
トレイの言葉の通り、燃えていた。
そこはつい先程映された子供達の拠点で。
トレイの目は、自責の念とどこか達観的な感情を持った、前よりは幾分が分かりやすいくせに何処か不気味な瞳だった。
笑った。
それは自称でも、乾いても居らず。
心底どうでもいいのだろう。
────林檎を頬張った。
先程と同じく、デフォルメされたトレイの姿が映される。
グチャ。
真っ黒な血飛沫が飛ぶ。
グチャ。
何も映さない血飛沫が飛ぶ。
笑って。
笑って。
笑って。
どうでも良くなった。
「 」
叫んで。
目を逸らした。
目を逸らした。
目を逸らした。
見られないように蹲った。
「 」
殺して。
─────林檎を頬張った。
今と同じくらいの年齢だろうトレイが、洞窟の中を彷徨っていた。
仲間は、いなかった。
その中に、トレイの知る者はおらず。
独りきりだった。
冷たい視線。
射抜くような瞳。
青緑の林檎を、手に、取る。
そして、噛じ、─────
戻る。
戻る。
戻る。
屍を越えて行く。
「 」
叫んで。
走る
転ぶ
笑う
目を逸らす
動けなくなって。誰かに視られているのが恐くて。
それでも、進んで行く。屍を越えて、戻って行く。
青緑の林檎を手に取る。
噛ろうと、して。
────────「 」
薔薇を塗ろう。
どこからか聞こえた、声。
画面が真っ黒に塗りつぶされる。
黒が、白に、変わっていく。
そこにいたのは。
“オーバーブロット”
オンボロ寮の地下にて。
食堂のとある一角にて。














編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!