第24話

23.いつも通り
119
2026/02/02 11:00 更新
H.
...そっか、ないちゃん
眠そうにしていた顔が驚き、悲しみに変わる


いむくんは椅子に座り、朝食を見つめた
H.
ゲーム、楽しかったな
H.
...アニキは?
S.
さっきないちゃんの引き取りが来て、その対応してくれてる
「そっか」と言っていむくんが立ち上がる


一口も食べずに何処かへ行こうとする彼を、僕は引き留めた


大きな羽から痩せた体が振り向く
S.
どこ行くん?
H.
…食べる気失せちゃったから
H.
部屋に戻ろうかな〜…なんて
困った様に笑い、そのままリビングを離れようとする


僕はそんな手を掴み、椅子に戻した
S.
ちょっとは食べて
H.
え〜…だってさぁ…
S.
食欲無いのはいつもやろ
H.
…そうだけど
S.
はい。食べて生きてなー
H.
......はーい
渋々、と彼は朝食を口にする


奇病が進むにつき、いむくんは食事を嫌がる様になっていた


ないちゃんの事で、と言うのも嘘でな無いのだろう


でも僕達は落ち込んでいても仕方ないから




Y.
あ、ほとけ。起きてたんや
H.
アニキ。ちゃんとご飯食べたよ!
Y.
偉い偉いw
悲しそうにしていたゆうくんは少し笑い、いむくんの前に座った


そのまま僕の方を見る
Y.
初兎、寝れてないやろ
Y.
ソファで寝る?
S.
あー、確かに。そうしようかな
ブランケットを取り、ソファに寝転がる


暖房で暖かいからか、2人の声がするからか


感じていなかった眠気が一気に押し寄せた









.
はい、誕生日プレゼント!
.
大事にしてね
うさぎのぬいぐるみが僕に渡される


男の子は屈託ない笑顔で笑った


誰かにプレゼントを貰うのは初めてだ


お父さんもお母さんも、僕に気持ち悪いと言うから
S.
ありがとう…!!
.
友達だからね!
その言葉が嬉しくて僕も笑うと、急にその子が歪んで見えた


世界が暗く、汚くなっていく


僕の周りには赤い蝶が舞っていた
S.
ッ…!なんで…
S.
怪我…いつ、して
.
何…ッ、チョウチョ…?
さっきまで笑っていたのに、恐怖に染まった顔で僕を見ている


声も手も、わかりやすく震えさせて


男の子は走って逃げ出した


僕もらびまるも置き去りにして
.
"化け物"ッ…!
蝶が飛び出る腕をその背中に伸ばす









S.
待っッ……
S.
......
差し込んだ太陽のの光が僕を照らす


伸ばした手には、新しい花が咲いていた


力なくそれを落とし、唇を噛む
S.
.....やな夢
それでも僕は、そのぬいぐるみを捨てられなかった


らびまると名付けたぬいぐるみは今も僕の部屋で無表情を貫いている


あの男の子が、唯一僕の友達になってくれた人だったからかも知れない


化け物と呼ばれ恐怖された僕は、全てを諦めた


でも、僕がただ弱いだけだったのかも知れない


嫌な記憶が付き纏うものでも、らびまるは確かに幸せの証だったから




Y.
初兎…起きた?
Y.
うなされとったけど、大丈夫?
寝転がったまま地面を眺めていると、黒の声が聞こえた


僕の顔を覗き込む様に近寄ってくる
S.
…..大丈夫
S.
ちょっと、変な夢を見ただけや
ゆうくんは、起き上がった僕の横に座った


憂いを含んで見える笑顔で僕に笑いかける
Y.
悪夢の1つや2つ、見る気持ちはわかるわ
Y.
みんなも、自分の体も…一気に変わって
Y.
人間やから。そりゃ…嫌にもなる
ゆうくんは優しく僕の頭を撫でる


もうその手は見えないけれど、体温や感覚は確かに存在する


僕を落ち着かせようとする彼の顔は、僕よりずっと辛そうに見えた
Y.
…まぁ今日くらい、落ち込んでてもええやろ
Y.
"いつも通り"に戻れんくても
S.
…やな
S.
たまには落ち込むのも、駄目やない
大切なみんなが居る今、どうしてあの夢を見たのかはわからない


きっと何度も何度も見た夢を


けれど今の僕は、昔より前を向いていた
S.
変な夢は見たけど、ちゃんと寝れたわ
S.
ありがとな
あの子を思い出した数分後には、笑える程度に



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