私ー朝は、作ったチョコレートを手に、朱羽の部屋の前に立っていた。
今日は、絶対に渡す。何があっても。
そう決めていた。
勇気を出して、こんこん、と部屋をノックする。
ガチャ、と扉が開いた。
朱羽は、なぜか歯切れ悪く言う。
少し不思議に思って、
と聞く。
朱羽はそう言うと、手招きして私を部屋の中に入れてくれる。
扉が、がちゃん、としまった。
目の前が、真っ暗になった気がした。
無意識に、手に持っていた、チョコレートの箱を服の下に隠す。
朱羽は、顔を真っ赤にして、私に言う。
……………………顔、赤すぎて、朱羽のファンのペンライトみたい。
何にも関係ないのに、そう思った。
視界が、ジワリと歪む。
あぁ、私の恋は、もう、終わりなんだ。
涙が溢れないように、顔をあげて。
大好きな人に、私が向ける、最幸の笑顔を。
_________________ごめん、菜ノ花。これで、最後にするから。
菜ノ花は、橙矢のことが好きだと分かっていても、なぜかそう思ってしまう。
もう、私の恋は終わった。
部屋を出ようとすると、後ろから、おい、と声をかけられる。
輝かしい、笑顔。
あぁ、なんで、君はそんなにずるいんだろう。
なんで、私じゃななかったんだろう。
菜ノ花のことが好きなら、私に向けて、そうやって笑わないでよ…。
涙が一筋、頬を流れた。
朱羽にバレたくなくて、そのまま部屋を出る。
自分の部屋に入った瞬間、もうダメだった。
チョコレートの箱を地面に投げつける。
涙が次から次へとでてくる。
悲しい、悲しいバレンタイン。
チョコの箱を拾って、一つ取り出して食べる。
甘い甘いチョコは、涙のせいで、とても塩辛い味がした。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!