あっと先輩達のからかいを振り切るようにして、ぷり先輩は私の手を引いたまま、賑やかな人混みの奥へと進んでいく。気がつくと、他のメンバーの姿は見えなくなっていた。
そっぽを向いたままの先輩の横顔は、屋台の明かりに照らされてほんのり赤い。
先輩が指差したのは、キラキラと光るりんご飴の屋台だった。
私が目を輝かせると、先輩はふっと柔らかく微笑んで、すぐにふたつ買ってくれた。
りんご飴を食べる私を、ぷり先輩は自分のりんご飴を片手に、ずっと優しい目で見つめている。
そう言って、先輩は自由になった方の手で、私の頬についた薄い飴の破片を親指でそっと拭った。その指先が少しだけ長く肌に触れて、心臓がトクン、と大きく跳ねる。
そう言うと、空いている方の手で私の手を繋いできた。繋いだ手のひらに、きゅっと少しだけ力がこもる。私も握り返した。
ぷり先輩に連れられてやってきたのは、花火大会のメイン会場から少し離れた、高台にある小さな公園だった。ここなら人混みを避けつつ、夜空に広がる大迫力の花火を特等席で見ることができる。
先輩はそう言って、浴衣の袖を少しだけ捲り上げながらベンチに腰掛けた。その隣に、私も少し緊張しながら腰を下ろす。
──ヒュゥゥゥ、と夜空を切り裂くような音が響いた直後。
ドンッ!!!
お腹の底に響くような大音量とともに、夜空に巨大な大輪の金色の花火が弾けた。一瞬にして、静かだった公園が昼間のように明るく照らし出される。
思わず立ち上がって夜空を見上げる私。
けれど、次に打ち上がった鮮やかな紅色の花火の光の中で、ふと視線を感じて横を見ると──ぷり先輩は夜空ではなく、じっと私を見つめていた。光と影が交互に映し出される、先輩の整った横顔。いつもは悪戯っぽく笑うその瞳が、今は驚くほど真剣で、吸い込まれそうなほどに輝いている。
その瞬間、私の心臓が、花火の音よりも大きくドクンと跳ねた。
花火の爆音に紛れて、胸の奥がぎゅうっと締め付けられるように苦しくなる。この不思議なドキドキの理由が、今の私にはまだ分からない。これは、花火による感情なのか、それとも、目の前にいるぷり先輩に対する別の感情なのか──。
大音量の中でも、先輩が私の名前を呼ぶ声だけは、はっきりと鼓膜に届いた。花火の光に照らされた先輩の瞳から目が離せなくなって、私はただ、高鳴る鼓動を必死に隠すことしかできなかった。
見つめ合ったまま動けない私に、ぷり先輩はふっと我に返ったように目元を和らげた。けれど、すぐに自分の視線の熱さに気づいたのか、カッと顔を赤くしてガシガシと頭を掻く。
小さく言い返すと、先輩はさらに焦ったようにそっぽを向いた。
嘘つけ、と言いたくなるような強引な言い訳。髪の隙間から覗く耳の先が、真っ赤に染まっている。
蚊の鳴くような声で、ぷり先輩が呟いた。いつもは「可愛い」なんて絶対に言ってくれない先輩からの、精一杯の褒め言葉。
私が小さくお礼を言うと、先輩は繋いだままの手を、今度は少しだけ優しく握り直した。夜空には、途切れることなく大輪の花火が咲き乱れている。
胸の奥でトクトクと暴れるこの鼓動の正体は、まだ分からない。けれど、火薬の匂いと夏の夜風に包まれながら、私は「もう少しだけ、このままでいたい」と、強く願わずにはいられなかった。
次回に続く












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。