青年は眉根を下げて笑いながら静かに謝った。
その場にいた全員が驚いた。
一方ヒーローに抱かれた少女も混乱していた。
なぜそんな行動をとるのか…__本人からしてみれば、"当然のこと"であり最初からこうする算段だった。
"なにかを守るためにはなにかを切り捨てなくちゃいけない"
__それは青年の心に刻まれた言葉。
脱走したら殺されるだろう世話役には目をつむる、妹の心身を守るため倍の痛みを背負う、目的のため怖じ気づく自分を押し殺す。
必ずなにかを"犠牲"にしなければ成立しなかった。
何事も"代償"が必要なのだ、と学んでしまった。
ゆえに青年は
__まず最初に"自分"を切り捨てた。
青年の"最優先事項"。
それは世界でたった一人の家族__"エリ"だ。
妹のためなら何でもするだろう、どんなことも厭わない。
そんなことはオーバーホールもすでに把握住みだった。__だが
地獄のような生活、一度目の失敗から死に物狂いでようやく見つけた活路。
それを前に15歳の青年はそれらを捨てて易々と自身を差し出したのだ。
今の行動でオーバーホールは確信した。
__この青年はどこか壊れている。
エリよりもおれの方が"利用価値"が高い。おれがこっちへつけば手を引いてくれる可能性はあるはず。
くるりと背を向けたときだった。
後ろからかるい衝撃。な…___
なんで、なんでや…!!
ぎゅう、としがみつくその肩をつかむけど、目をかたく閉じて涙をこぼしながら首を横に振るばかり。
__なんで?どうやって来たんや。ヒーローたちは?
なんで?
なんで、
どうしてたすけてくれないんや
ああ、この感覚___前にも味わったことのある感覚。
"また"、たすけてくれない。
気づけばもう手に力は入っていなかった。
エリを抱っこする。
また暗闇へと足を踏み入れた。
ペタ__ペタ__
冷たくて重い空気のなか、おれたちは戻ってきた。
エリはうつむいてた。
いつもの廊下、そしていつものおれたちの部屋へ向かおうとしたときだった。
向こうからおれが閉じ込めた世話役かこちらへ走ってきた。
呼ぶとそれだけでエリはおれのやってほしいことを理解して耳を塞いで肩口に顔を埋める。
__バツン
壁一面に赤いべっとりしたものが飛び散る。
その光景におれはただ目を伏せるだけ。
…もう見慣れてしまったのか、もう何も感じなくなったのかな、おれは。
部屋についてあの男はおれを呼ぶ。それより先にエリに部屋に入るようニコリと笑顔で言った。
男は近づいてくる。
赤い瞳が不安げにこっちを見たけど部屋へ入っていった。
__バチンッッ!!
頬に激痛がはしったら体が簡単に壁へとばされた。
びりびりした感覚が頬を纏う。
そのまま足音は遠ざかって静かな廊下におれだけが残った。
__……。
パンパン、と服についた埃を払って部屋の扉を開ける。
エリはこっちを見ると驚いたみたいだった。
近づいてきたエリに目線を合わせるよう膝をついてしゃがんだ。
珍しく声をあげた
呆然と、眉間を寄せて目を閉じ泣く少女を見つめる。
おれは…
__っおれは…!!
そっと、その小さな体を腕の中に引き寄せて抱きしめた。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。