佐久間が生徒会室で大きな声を上げたのは、放課後のことだった。
康二は大きな丸メガネを押し上げながら、固まった。
学園祭実行委員の手伝い要員として、佐久間が直接指名してきたのだ。
康二の頰が、わずかに赤くなる。
佐久間はそれを見逃さず、ニヤリと笑った。
夜の体育館。
照明を落とした広い空間に、提灯や造花、手作りの看板が並んでいた。
康二と目黒、そして佐久間の三人。
康二が小さく頭を下げる。
目黒は無言で頷き、提灯の紐を結ぶ作業を始めた。
二人の間に、わずかな沈黙が流れる。
佐久間がわざとらしく間に入ってきた。
康二が慌てて否定すると、目黒が低い声で短く言った。
康二が小さく呟くと、佐久間が楽しそうに目を細めた。
探りを入れられながらも、作業は進んでいく。
康二は真面目に造花を並べ、目黒は黙々と高い場所の提灯を吊るしていた。
夜も更けた頃。
佐久間に言われ、康二は脚立に登った。
足元が少し不安定で、メガネがずれそうになる。
次の瞬間、康二の足が滑った。
体が後ろに傾き、バランスを崩す。
低い声と同時に、腕が強く腰を抱きすくめた。
目黒の胸に、康二の背中がぶつかる。
汗の匂いと、少し温かい体温。
康二は動けなくなった。
目黒の腕が、しっかりと自分の体を支えている。
心臓が、爆発しそうな音を立てていた。
目黒の声が、耳元で低く響く。
康二は俯いたまま、かすれた声で答えた。
二人の距離は、ほとんどゼロだった。
佐久間は少し離れた場所から、ニヤニヤしながらその光景を眺めていた。
その夜、帰宅途中。
ラウールは康二と並んで歩いていた。
康二はまだ少し頰が赤い。
康二がぽつりと話すと、ラウールの胸がぎゅっと締め付けられた。
頭の中に、康二が誰かの腕の中にいる映像が浮かんで、苦しくなる。
ラウールは足を止め、康二の方を向いた。
夜風が二人の間をすり抜ける。
言葉が、喉の奥まで出かかった。
好きだ。
ずっと好きだ。
中学の頃から、ずっと。
でも──
ラウールは唇を噛み、寸前で言葉を飲み込んだ。
康二は不思議そうに首を傾げたが、優しく頷いた。
二人の影が、街灯の下で長く伸びていた。
春の夜は、まだ少し肌寒かった。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。