謙杜side
ぱちっ。
目が覚める。背中に嫌な汗。荒い呼吸。
「……またか。」
最近、同じ夢を繰り返し見る。辛くて、苦しくて、目が覚めるたび胸の奥がえぐられるような夢。
時計は午前2時を回っていた。
時計の横の棚には屈託のない笑顔を見せる少女の写真。
……いや、遺影。
彼女は俺の恋人だった。
結婚を前提に付き合っていて、
心から大切に思っていた人。
癌で亡くなって、もう半年が過ぎようとしている。
周りは少しずつ立ち直っているけど、俺だけが置いていかれたまま。
毎晩夢に現れる彼女は、病院のベッドで泣いている。
ただそれだけの夢。だけど俺にとっては悪夢だった。
目が覚めれば、そこに彼女はいない。
今見ていたものは幻だと知らされる。
いっそ、永遠に夢の中に閉じ込められたい。
死んでしまおうか、そんな考えがふと浮かぶ。
だけど、それができない理由がある。
「みんな、だいすきー!」
俺の声で揺れる会場。たくさんの黄色い光。
俺はアイドル、なにわ男子。長尾謙杜だ。
ー楽屋ー
「はー、つかれた。」大吾が座り込む。
「めっちゃ盛り上がったなぁー!」和也が笑う。
横浜公演が終わり、すぐに次の新潟公演が待っている。気合を入れなければ。
頬を叩いてスマホを取り出し、エゴサする。
🔎「長尾謙杜」
👤「長尾くん最近元気ないよね」
👤「謙杜の顔疲れてた、心配すぎる」
心臓がひやりとする。隠せていると思っていたのに、ファンに見抜かれている。
しっかりしなきゃと思えば思うほど、
笑い方が分からなくなる。
メンバーに心配されるのも、
もううっとおしいと思うくらい。
ただ何も考えずにぼーっとする時間が増えていた。
そんなある日、足首に激痛が走った。
練習のしすぎかと氷で冷やしても治らない。
むしろどんどん痛みは強くなっていく。
【続きます🌟】












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!