──数年前。雪の降る夜。
黒い影が家を焼き、家族の悲鳴が雪に溶けていった。
凍える足で外へ逃げたとき、背後から何かが迫っていた。
恐怖で足が動かず、ただ立ち尽くしたあの夜──
助けてくれた“誰か”がいた。
白く柔らかい風のように現れて、鬼を斬り伏せた剣士が。
顔も、名前も覚えていない。ただ、ひとつだけ。
──その剣が、とても綺麗だったことだけ。
それが、私が剣を握った理由だった。
復讐とかじゃない。
ただ、あの剣のように、誰かを守れる存在になりたかった。
だけど、何故かあのときの記憶は曖昧なまま。
霞に包まれたように、肝心なところが、思い出せない。
そんな私が鬼殺隊に入ったばかりの頃。
不安で、何もかもが怖くて。
「私なんかが剣を握っても、結局何も出来ないんじゃないか」って。
自分自身に問い続けていたとき──
彼の方が私の一番欲しい言葉をくれた。
心が凍りそうだったあの日。
それでも前に進もうとした私の、“最初の一歩”を受けとめてくれた人。
ずっと忘れていた。 でも今、思い出した。
__あの日の剣に、似てるから。
知らないといけないって、思った。
私の人生を変えたものだから。
……怖いけど、進まなきゃいけない。
急に立ち上がったあなたは、静かに歩き出す。
向かう先は、お館様の待つ、産屋敷邸。
荘厳な門の先に、いつもと変わらぬ静けさがあった。
部屋に通され、膝をつくあなたの姿は、以前よりもほんの少しだけ強く見える。
目を伏せたまま、ゆっくりと言葉を紡ぐ。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。