第二十話「拗ね顔の兄」
風呂場のドアが開き、もわりと湯気が廊下に流れ込んだ。
タオルで頭をわしゃわしゃ拭きながら、浩史がリビングへ戻ってくる。
浩史:「……ふぅ。やっぱ風呂は一人に限るな。」
髪がまだしっとり濡れたままの浩史が入ってくると、ソファに寝そべる孝宏が視界に飛び込んだ。
仰向けに両手両足を投げ出し、完全に「ふて寝モード」。
浩史は思わず口元をゆるませた。
浩史:「お前、まだ拗ねてんのか。」
返事はない。
ただ、ソファの背もたれに顔を半分埋め、ぷくっと頬を膨らませたまま微動だにしない。
浩史はタオルで頭を拭きながら、わざとゆっくり孝宏に近づいた。
浩史:「なぁ。子どもみたいに拗ねてんの、母さんと自由にバレてたぞ。」
その言葉に、孝宏の肩がぴくりと動く。
しかし「聞こえてません」と言わんばかりに、視線を天井へ固定している。
浩史:「……ははっ。図星か。」
テーブルにタオルを放り、孝宏の横に腰を下ろす。
そして片肘でソファの背を支えながら、上からじっと覗き込んだ。
浩史:「そんなに一緒に風呂入りたかったのか?」
孝宏:「……別に。」
浩史:「強がりすんな。」
口元を意地悪く上げて笑う浩史。
孝宏はなおさら顔を背け、低い声で呟いた。
孝宏:「……一人で入るのつまんねぇじゃん。」
その一言に、浩史はふっと目を丸くし、次の瞬間、堪えきれず吹き出した。
浩史:「……ぷっ、ははっ!何だそれ!」
孝宏:「笑うなよ!」
孝宏は思わず起き上がり、兄に軽く拳を振り下ろす。
浩史は肩で笑いながらひょいと避け、反撃のように孝宏の頭をわしわしと乱暴に撫でた。
浩史:「はいはい。じゃあ次は一緒に入ってやるから拗ねんな。」
孝宏:「……絶対な。」
にらみながらも、その声にはどこか嬉しさがにじんでいた。
台所からそのやりとりを見ていた母と自由は、顔を見合わせて小さく笑った。
母:「ほんと、あの双子はいつまでたっても子どもね。」
自由:「でも……なんか、安心する。」
母は頷き、味噌汁をお椀に注ぎながら、にこにこと目を細めた。
リビングの真ん中では、まだじゃれ合うように笑い声を交わす双子。
夜の静かな家に、その声はいつまでも響き続けた。
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✨第二十話 完✨️












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。