主人公 side
朝、いつも通りに出勤すると
現場が騒然としていた。
理由を尋ねてみると、
スタッフさんからの予想外な回答に、
自分で思っているよりも大きな声が出た。
最近はいつも、現場に私が到着すると
すぐに絡んできていたのに
今日は来ないから、何か変だと思った…。
急ぎ足で控え室に向かい、
扉を開けると、ソファに横たわっているジュノンを見つけた。
いつも通り、ふにゃりとした顔で笑うジュノン。
その顔は普段よりも赤く染っていて。
これ、結構熱があるんじゃない…?
起き上がろうとするジュノンの額に自分の手を当ててみると、やっぱりかなり熱くて。
…こんな状態でも撮影をしようとするなんて…
普段、何も考えてなさそうなふりして
本当に真面目なんだから。
ゆっくりと起き上がったジュノンの体を支えながら、
楽屋を出て歩いていると、
別室で待機していたメンバーたちが
心配そうにジュノンの様子を見に来た。
心配させまいと
いつも通りにヘラりと笑うジュノンの横顔に
少し胸が痛んだ。
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ジュノンの家について、彼をベッドに寝かせたあと
お水と体温計を手渡した。
数分待っていると、ピピピ、と鳴る軽快な音。
背中を向けながら、
ぶっきらぼうに言い放ったジュノン。
いつもだったら、
もうちょっとそばにいて〜とか甘えてきそうなのに。
彼は普段、
なかなか人に弱音を吐いたりしない。
実はメンバーの中の誰よりも、自分に厳しい男の子。
だからこそ、
こういう時の甘え方が、下手くそなのだ。
いつも通りの大きな背中が、まるで小さな子供のように見える。
嫌味を込めてそう言うと、
ジュノンは赤い顔ではは、と笑った。
ジュノンは目を閉じてしばらく考えると、
そっと私の手を握った。
熱のせいで潤んだ瞳が、私の顔をじっと見つめる。
……元々、彼が色気のある顔立ちをしているのは理解していたけれど、
こう、まじまじと見ると……改めて、すごいな……。
…って、病人相手に私は何を考えているのか…
弱い力で握った私の手を、そのまま自分の頬へ持ってきてぴとっと当てるジュノン。
そしてそのまま、またふにゃりと笑う。
……あ、やばい。
なんか、
いつもより……
……さっきから、正直ジュノンが可愛すぎて
私の理性が飛びそうなんですけど……
……いや、飛ばないけどね。うん。
まさか熱を出した時のジュノンの攻撃力がこんなに高いとは…。
そう言って目を閉じたジュノン。
しばらくすると、規則正しい寝息が聞こえてきた。
抑えていた胸の鼓動が、限界を迎えたように
ドクドクと全身の熱を上げていく。
普段の妙に大人っぽい笑顔は、何を考えてるかわからなくて怖いけど、
静かな部屋の中には、彼の寝息と私の独り言だけが
小さく響いた。
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JUNON side
目が覚めると、一番最初に視界に入ったのは
見慣れた自分の家の天井。
…俺、撮影現場に行ったはずなのに、
なんで自分の家にいるんだっけ?
そう思って、隣に視線を移すと
ベッドの端で座ったまま寝ているあなたがいた。
……あぁ、そうだ。
俺、体調崩してあなたが家まで連れてきてくれたんだ。
声をかけようとした時、
手のひらの温もりに気づいた。
彼女を起こさないように、体勢を横向きに変えると、
気持ち良さそうな寝顔と距離が近くなる。
ほんの少し近づけば、
キスが出来ちゃうような、そんな距離。
キス、したい。
でも、風邪移しちゃうかもしれないから…
触れられないかわりに、
今まで言葉に出来なかった想いが、自然と溢れてくる。
静かな部屋の中には、彼女の寝息と俺の独り言だけが
小さく響いた。
第8話、完
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。