第324話

学祭っ!2日目⭐︎〜後編〜①
31
2024/03/01 12:00
 何も出し物が行われていない校舎内は、もちろんのこと人気ひとけなんてものはなく、他の校舎に比べ静まり返っていた。

狗山は一人、屋上へと続く階段で腰を下ろし、外から微かに聞こえてくる楽しげな声を掻き消すかのように大きなため息を吐き出し、顔を俯かせる。
狗山 羽和
...俺、一体何してんすかね...?何してんだろ...?意味わかんねぇ、まじで...。何してんだよ...?
狗山 羽和
...別にいいじゃん、幸先輩が誰と居ようと。俺には関係ない話じゃん。あのまま声かけてもよかったのにさ...なんで逃げてんの、俺?マジで何やってんすか?
狗山 羽和
...あーあ、なんだろ、これ...?なんなんだろ...?なんでこんなに胸がチクチクすんだ...?モヤモヤすんだ...?痛いんだ...?苦しいんだ...?辛いんだ...?わかんねぇ...わかんねぇよ...。
狗山 羽和
幸先輩とは、ただの友達だろ...?ただの先輩後輩で、友達で...。だから、こんな気持ちになるのは、絶対におかしいって...。おかしい...おかしいっす...。このたこ焼きに、絶対になんか変なもん入ってたに違いないっす。そうじゃなきゃ、わけわかんないっす。そうだ、きっとそうだ...きっと...。
狗山 羽和
......。
狗山 羽和
......なんで俺、泣いてんすかね...?あぁ...なんでだよ...?泣く要素、どこにあんだよ...?意味わかんねぇ...意味わかんねぇよぉ...!
狗山 羽和
もう、わけわかんねぇよぉ...!!
狗山 羽和
好きじゃねぇんだろ...?好きじゃねぇんだったら、泣く意味ないだろうが...!なんで泣いてんだよ...?意味わかんねぇだろうがよ...!泣くな...泣くな泣くな泣くな泣くな...!!
狗山 羽和
あぁ...くそ、くそくそくそ...!バカバカバカバカバカ...!バカ...!自分の、バカ...!バカやろう...!!いつまで、意地張ってんだよ...?バカ...。
狗山 羽和
...いい加減、認めちまえよ...バカやろう...。
狗山 羽和
俺...俺は......。
狗山 羽和
(M)いつからなんだろう?いつからなのかは、わかんない。でも、気がついたら、なんか気になってた。
狗山 羽和
(M)最初は、なんでもできるすげぇ先輩だった。ただ、そんだけだった。学年も違うし、部活も違うし...関わる機会が少なかったから、すげぇ先輩で終わるはずだった。
狗山 羽和
(M)それなのに...いつからか、カッコいいなって思ってたのが、さらにカッコよく見えて。優しいなって思ってたのが、もっと優しくなってて。すげぇってのが、楽しいってのが...色んなことが、最初の頃よりも、すげぇ膨らんでいって...。
狗山 羽和
(M)いつからか、もっと一緒にいたいなって...そう思うようになっちまって...。だからーーー
関 幸
何してるんですか、こんなところで?
狗山 羽和
...へ?
関 幸
楽しい楽しい学園祭だというのに、一体何があったんですか?
狗山 羽和
ゆ、ゆゆゆ幸先輩!?な、なんでここに!?え!?なんで!?
関 幸
君が廊下を慌ただしく駆けていく姿がチラッと見えたような気がしましてね。気のせいかなと思いましたが、やはり気になってしまったので探しにきたんです。
関 幸
隣、座ってもいいですか?
狗山 羽和
ど、どうぞどうぞ!気にせず座ってくださいっす!
関 幸
では、失礼します。
狗山 羽和
(ぬおぉぉぉ...!?ま、マジか...マジっすか...!?嘘だろ、おい...!まさか、幸先輩が来てくれるなんて...!嬉しい気持ちはあるけど、正直今は...!!)
狗山 羽和
(...いや、めちゃくちゃに嬉しい...。チラッと見えただけなのに。気がしただけなのに。確証なんてどこにもなかったのに。それなのに、探しに来てくれた。俺のこと心配して、探しにきてくれた。そんなの、嬉しくないわけがない。)
関 幸
もし君が話すことでスッキリするのであれば、なんでも話してください。解決策が見つかるかはわかりませんが、私もできる限りの協力はしますよ。一人にしてほしいのならば、遠慮せず言ってください。
狗山 羽和
(なんで...なんでこの人は、こんなにも優しいんだろう...?こんなことされたら...されたらさ...。)
狗山 羽和
(でも、ダメだ。絶対にダメだ。わかってる。わかってるんす。だから、甘えんな。幸先輩に迷惑かけんな。これ以上、幸先輩の優しさに甘えんな。)
狗山 羽和
...幸先輩。
関 幸
はい、なんですか?
狗山 羽和
......幸先輩の隣に居た女の人...誰っすか...?
関 幸
...ん?
狗山 羽和
(うおぉぉぉぉぉい!?何聞いてんだ、俺ぇぇぇぇぇ!?違う違う違ーーーーう!!「俺は大丈夫だから、気にしないで!」だろうが!!全然違うこと言ってんじゃねぇか!!なにしてんだ、バカ!!ほんとバカ!アホ!バカやろうがぁぁぁぁ!!)
狗山 羽和
す、すんませんすんません!!変なこと聞いてすんません!!いや、その、マジで忘れてください!!違います違います!!その、俺はもう大丈夫ーーー
関 幸
ふっ...あはははは~!
狗山 羽和
え!?ちょっ、なんで笑ってんすか!?
関 幸
君がどうして泣いているのか、わかったからですよ。そうですかそうですか、そうでしたか。
狗山 羽和
いやだから、俺は泣いてないっすよ!変な勘違いはしないでくださいっす!
関 幸
......羽和くん。
狗山 羽和
は、はい。なんすか...?
関 幸
...私の隣に居た人はね、私の二個上の先輩なんです。探偵部の、元部長さんです。
狗山 羽和
探偵部の...。
関 幸
あの人は、私の先輩であり......私の、片想い人ですよ。
狗山 羽和
......。
関 幸
ですから、私は君の気持ちに良い返事をすることができません。本当にすみません、羽和くん。
狗山 羽和
...あ、いや......な、なんで幸先輩が謝ってんすか~?別に、謝ることじゃないっすよ~!それに、遠目からでしたけど、なんとなくそうなのかな~ってのはわかってたっす!なんつーか、すげーお似合いだな~って!遠目からでも、すげー...その......なんつーか......そ、その......。
 無理矢理作った笑顔は、すぐに崩れていく。また、ポタポタと大粒の涙が頬を伝う。
狗山 羽和
...ごめんなさい...ごめんなさい...幸先輩、ごめんなさい...!
関 幸
どうして、君が謝るんですか?
狗山 羽和
だって、俺...!俺のせいで...せっかく好きな人と一緒に...一緒だったのに...!俺のせいで...!
狗山 羽和
ごめんなさい...ごめんなさい...!ほんとに、ごめんなさい...!
関 幸
君のせいではないですよ、羽和くん。私が今ここにいるのは、私の意思です。私が来たくて来たんです。だから、君は謝らなくていい。羽和くんは、何も悪いことしてないんだから。
狗山 羽和
(M)泣いてたら、幸先輩を困らせちまう。そんなことは、わかってた。でも、止まんなかった。改めて気づいた。俺が、幸先輩のこと、すげー好きなんだなって。
狗山 羽和
(M)でも、それ以上に、自分の弱さに気づいた。狗山 羽和という人間は、すげー弱くて、すげー情けなくて...それが、悔しくて...泣いちまうくらい、悔しくて...。
関 幸
落ち着きましたか?
狗山 羽和
はい、落ち着いたっす。すんません、幸先輩...タオル、洗って返します。
関 幸
それ、あげますよ。なんで、返す返さないは君の自由にしてください。
関 幸
むしろ、私の方こそすみません。自分勝手に気持ちをお伝えして。君を慰めるつもりが、かえって傷つけてしまいましたよね?
狗山 羽和
あ、いや、その件に関しては、むしろ言ってもらえてよかったっす。何も言ってもらえなかったら...幸先輩がここに来てくれなかったら、ずっと一人でモヤモヤしてただろうし。だから、言ってもらえてすごくよかったっす。
関 幸
そうですか。それならばよかったです。
狗山 羽和
...幸先輩は、その...いつから気づいてたんすか...?
関 幸
いつからでしょうね~?
狗山 羽和
俺、そんなわかりやすかったっすか...?
関 幸
まぁ、日に日に反応が大きくなってましたからね。私はどこぞの鈍感男ではありませんし...さすがに「これはもしや...?」とは思いますよ。
狗山 羽和
うぅ...なんか、恥ずかしいっす...。
関 幸
素直なのは君の良いところですが、さすがに素直すぎますよ。
狗山 羽和
す、すんません...。
関 幸
私、そのうち君は詐欺に引っかかるのではと思って心配ですよ。
狗山 羽和
さ、さすがにそれはないっすよ!
関 幸
そうは言われても心配しちゃうくらい、君は素直で優しい人なんです。気をつけてください。
狗山 羽和
は、はい。気をつけます...。
関 幸
あっ、そうそう...私が先輩のこと好きだってことは、誰にも言わないでくださいね?特に、張間くんや傑くんには。
狗山 羽和
言わないっすよ。俺、そういうことベラベラ言うやつに見えるっすか?
関 幸
ベラベラ言わないとは思いますが、口滑らせて言いそうなので、一応ご忠告です。
狗山 羽和
あー...それは否定できないっす...。もし口滑らせたら、すんません...。
関 幸
こればかりは許しません。
狗山 羽和
滑らないように、がんばります...!
関 幸
では、君も落ち着いたみたいですし、そろそろ学祭に戻りましょうか。ここでお話ししてるのもいいと思いますが、せっかくなら年に一度しか味わえない空気を存分に味わいましょう。
狗山 羽和
は、はい!そうっすね!
関 幸
では、いきましょうか。
狗山 羽和
......ゆ、幸先輩。
関 幸
はい、なんですか?
狗山 羽和
......そ、その...あの......幸先輩は...好きな先輩に告白する予定とか、あるんすか...?
関 幸
...君にこんなこと言うのは、少し恥ずかしい気がしますが......今のところは、ないですよ。今、気持ちを伝えたところで、断られるのは目に見えてますし。
狗山 羽和
そ、そうっすか...。
狗山 羽和
...幸先輩。
関 幸
なんですか?
狗山 羽和
......好きです......。
狗山 羽和
俺、幸先輩のこと...めちゃくちゃに、自分が思ってる以上に、大好きです。
狗山 羽和
いつから好きになったのかは、わかんないんすけど...ずっと、幸先輩と一緒に居たいなって思ってます。
狗山 羽和
だから...その...。
狗山 羽和
幸先輩が、好きな先輩に告白してOKもらえた時は...そん時は、いさぎよく諦めます。だから...それまでは、頑張ってもいいっすか...?
狗山 羽和
それまでは、まだ好きなままでもいいっすか...?
関 幸
...それを決めるのは、私ではないですよ。ただ、これだけは言っておきます。私は、君が思っている何倍も何倍も、先輩のことを好いています。なので、きっとこの先、今以上に辛いことがあると思いますよ。
狗山 羽和
それはわかってます。でも...俺、まだ可能性がほんの少しでもあるのなら、諦めたくないんす。
狗山 羽和
だから、お願いします...!
関 幸
...先ほども言いましたが、それを決めるのは私ではありません。忠告はしましたので、後は君の好きなようにしてください。
狗山 羽和
はい!好きにさせてもらうっす!
関 幸
では、これも言っておきますが...私、あなたのことただの後輩としか思ってませんから。
狗山 羽和
うぐっ...!?
関 幸
今のところ、あなたに恋愛感情なんて、これっっっぽっちもありませんから。
狗山 羽和
これっっっぽっちも!?
関 幸
はい。これっっっっっっぽっちも。
狗山 羽和
さっきよりも増えてるっす!?なんでっすか!?
関 幸
期待させて傷つけたくはないだけですよ。私なりの優しさです。
狗山 羽和
そ、そうっすか...?でも、そっちのがわかりやすくて助かるっす!変な期待せずに、ゼロから頑張れるっすからね!
関 幸
さてさて、これ以上君に変な期待させたくないので、今から先輩に告白してきますか~。
狗山 羽和
うぉぉぉい!?待て待て待てっす!!いいんすか!?今告白しても、絶ッッ対にフラれるっすよ!!それでもいいんすか!?
関 幸
なんで決めつけるんですか?そんなの、やってみないとわからないじゃないですか。
狗山 羽和
いやいやいや、ついさっき幸先輩が自分で...いや、待てよ?今告白してフラれたら、俺としてはチャンスが回ってくると考えれば...ここは、ゴーサインと出してもいいのでは...?
関 幸
羽和くん羽和くん、まずフラれる前提で話を進めるのやめてもらえませんか?
狗山 羽和
あっ、そ、そうっすね...すんません...。でも、俺としてはフラれてほしいっす!すんません!
関 幸
あははは~!君は、本当に素直な後輩ですね~!
狗山 羽和
(M)幸先輩のあの笑顔を見た瞬間「あぁ、自分にはあの笑顔を引き出すことができない」そう思ってしまった。それが、すごくすごく悔しかった。すぐに諦めた自分が、すごくすごく情けなかった。
狗山 羽和
(M)でも、諦めたおかげで気づいた。俺は、幸先輩のこと好きなんだって。自分が思っている以上に、大好きなんだって。諦めた自分をぶん殴りたくなるくらい、大好きだって。
狗山 羽和
(M)諦めたくない。まだ好きでいたい。これからも、この先も、ずっとずっと。だから...。
関 幸
では、私は傑くんの舞台を見に行きますので。
狗山 羽和
了解っす!いってらっしゃいっす!
関 幸
いってきま~す。
狗山 羽和
...幸先輩!
狗山 羽和
俺、幸先輩のこと、めちゃくちゃに好きっす!大好きっす!だから、覚悟しててくださいね!
関 幸
そうですか。まぁ、ほどほどに無理のない程度に頑張ってくださいね~。では~。
狗山 羽和
へへへ...!よ~し、よしよしよし!頑張るっすよ~!今日から俺、めちゃくちゃに頑張る...前に、腹ごしらえっすね!なんかめちゃくちゃに腹減ったっす!
狗山 羽和
よ~し!まずは、学祭を楽しむっすよ~!飯だ飯だぁぁぁ!
狗山 羽和
(M)たとえ可能性が低くても、ゼロに近くても、絶対に諦めないっす。そんくらい、好きだから。狗山 羽和という女は、すげー、めちゃくちゃに、諦めるのが大嫌いな女だから。

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