__書斎
魔王城の地下には、大きな書斎が設けられている。窓がなく電気だけなので、少し薄暗い。本を読む時は、近くにテーブルランプを置いた方が見やすくていい。
そんな空間なので、あまり人が出入りしない。なのでゼロは、邪魔にならないここで静かに調べ物や書類の整理をしていた。
どうやら仕事ではなかったようだ。調べ物の内容から察するにフェザーのことだろう。ゼロは、最近のフェザーとの距離や冷たい態度を、反抗期だと思っているみたいだ。
考えれば考えるほど、反抗期になった理由がいくつも浮かび上がってくる。
子供を心配する親と化している今のゼロは、とても魔王には見えなかった。
交流を深めてお互いの仲も深めようと考えついたゼロ。早速今後の予定を確認する。
そうしていたら、噂をしていたからか知らないが、書斎にフェザーがやって来た。
そこにはいつも通りのフェザーが居たのだが、見た目がおかしかった。なぜか彼は、体を縄でぐるぐるに縛り付けられていたのだ。
__数分前
ユノンとフェザーは、フェザーがゼロに頭を撫でられるように誘導するための作戦を練っていた。
戸惑いながらフェザーは後ろを振り返る。すると、本棚にユノンが隠れていた。最後まで見届けるつもりだろう。
フェザーは彼にSOSの視線を送るが、ユノンからはグッドポーズしか返ってこなかった。
長年の演技力を糧に、ゼロの手を自身の頭へと誘い込む。しかもゼロは丁度フェザーのことで悩んでいたので、できることなら何でもしてあげたかった。
そのお陰でゼロは、フェザーの頭に手を乗せた。作戦は成功したのだ。
ゼロがフェザー頭の痒いところを探して隅々まで触ってくれるので、さらに心地良い気持ちに浸れた。
何かに目覚めかけているフェザーだが、ゼロに撫でられた幸福感と手の感触は死んでも忘れないと誓った。
フェザーが撫でられるのを堪能していると、ゼロがはぁとため息をついて手を離した。
急に手が離れてしまって、物足りなさを感じたフェザーはゼロに顔を合わせる。すると、ゼロが無言でじっとフェザーを凝視していた。
このままではゼロに嫌われてしまうと、フェザーは必死に言い訳をするべく思考を巡らせた。
そうしている内に、ゼロの口がゆっくりと開く。フェザーは、軽蔑的な言葉をかけられると思い、思わず目を瞑った。
しかし、今のゼロの顔は、紛れもない安心で溢れていた。
もしかして全部筒抜けだった?と思う余裕もなく、ゼロはフェザーの体に巻きついている縄を切り、そして頭をくしゃくしゃと撫でくりまわした。
まさかゼロからそんな言葉が出るとは考えておらず、フェザーも、思考を巡らせることを緊急停止せざる負えなかった。
そう言ってゼロは、にっこりと笑ってみせた。その笑顔はまるで、あの日初めて出会った時に見た、太陽のようだとフェザーは感じた。
ゼロの提案に、フェザーは喉が壊れるほどの声の音量で反応した。なのでゼロも、断られるかと少々不安になってしまう。
誤解を解くためにも、フェザーは喉の力を消費した。だが流石にこのままだと喉が壊れてゼロと喋ることができなくなってしまうので、次からは少量で話す。
頭を撫でてもらって今後も撫でてもらえる。それに重ねて来週出かけることになったので、フェザーは今、人生の絶頂にいると感じた。
フェザーが書斎を出ると、ゼロはフェザーが反抗期ではないことに安心し、本を返そうと本棚に近づいた。
ゼロは当然初めからユノンの存在に気づいていたようで、今更何も驚かなかった。むしろ気づけたことに喜びを感じていた。
ユノンの作戦のお陰で、ゼロはお出かけ予定まで入れられたのだから、感謝をしなければバチが当たってしまう。
ユノンのことは少し引っかかるが、先程の出来事で、そのモヤモヤも晴れた。ゼロは満足気に、ユノンと書斎を後にしたのだった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。