第42話

魔王様に頭なでなでしてもらおう作戦
463
2023/12/16 06:41
__書斎
魔王城の地下には、大きな書斎が設けられている。窓がなく電気だけなので、少し薄暗い。本を読む時は、近くにテーブルランプを置いた方が見やすくていい。
そんな空間なので、あまり人が出入りしない。なのでゼロは、邪魔にならないここで静かに調べ物や書類の整理をしていた。
ゼロ
ゼロ
……子供…反抗期………。ストレスや不満から…!?ファーーー………
どうやら仕事ではなかったようだ。調べ物の内容から察するにフェザーのことだろう。ゼロは、最近のフェザーとの距離や冷たい態度を、反抗期だと思っているみたいだ。
ゼロ
ゼロ
さっき話をした時も、なんか嫌われている感じがしたし…
ゼロ
ゼロ
はぁ…。まともに会話をしていなかったからか?それとも、魔王城に不満を…!?
考えれば考えるほど、反抗期になった理由がいくつも浮かび上がってくる。
子供を心配する親と化している今のゼロは、とても魔王には見えなかった。
ゼロ
ゼロ
……1度アイツに、食事でも誘ってみるか…?
交流を深めてお互いの仲も深めようと考えついたゼロ。早速今後の予定を確認する。

そうしていたら、噂をしていたからか知らないが、書斎にフェザーがやって来た。
フェザー
フェザー
……我が主…
ゼロ
ゼロ
うおっ!?ふぇ、フェザーか。どうしたこんなところまで来て。…………何をしている?
そこにはいつも通りのフェザーが居たのだが、見た目がおかしかった。なぜか彼は、体を縄でぐるぐるに縛り付けられていたのだ。
フェザー
フェザー
くはははは!……我もどうしてこうなったのかわからん!自力で解けないし、気づいたらこうなっていた!
フェザー
フェザー
(……我が1番知りたいぃぃぃ…!)
__数分前
ユノンとフェザーは、フェザーがゼロに頭を撫でられるように誘導するための作戦を練っていた。
フェザー
フェザー
……それで、ユノンとやらが考えついたのは、『身動きが取れない時に頭を触ってもらおう作戦』か…
ユノン
ユノン
そう!動けない時に、何らかの理由をつけて頭に触ってもらえばいいんだよ!
フェザー
フェザー
それが貴様の作戦か。なるほど、了解したぞ
フェザー
フェザー
(……て言ったはいいけど、よくよく考えると何それってなるよなぁ…!あからさまにぐるぐるな縄に適当な理由…。意味がわからないよ…!)
戸惑いながらフェザーは後ろを振り返る。すると、本棚にユノンが隠れていた。最後まで見届けるつもりだろう。

フェザーは彼にSOSの視線を送るが、ユノンからはグッドポーズしか返ってこなかった。
フェザー
フェザー
(えぇい!もう突っ走るしかない!何も考えるな!)
フェザー
フェザー
解けないから、我が主に解いてもらおうかと。……ん、き、急に頭が痒くなってきたぞ
フェザー
フェザー
…悪いが我が主。本当に悪いが、我の頭をかいてくれないか
ゼロ
ゼロ
?わかった。どこら辺だ?
長年の演技力を糧に、ゼロの手を自身の頭へと誘い込む。しかもゼロは丁度フェザーのことで悩んでいたので、できることなら何でもしてあげたかった。

そのお陰でゼロは、フェザーの頭に手を乗せた。作戦は成功したのだ。
フェザー
フェザー
(ふあぁぁぁ…。触ってくれたぁぁ…!)
ゼロがフェザー頭の痒いところを探して隅々まで触ってくれるので、さらに心地良い気持ちに浸れた。
フェザー
フェザー
(んあぁ…、気持ちいぃ…。少し爪もあたるけど、これはこれで…)
何かに目覚めかけているフェザーだが、ゼロに撫でられた幸福感と手の感触は死んでも忘れないと誓った。

フェザーが撫でられるのを堪能していると、ゼロがはぁとため息をついて手を離した。
フェザー
フェザー
……!…あれ……?
急に手が離れてしまって、物足りなさを感じたフェザーはゼロに顔を合わせる。すると、ゼロが無言でじっとフェザーを凝視していた。
フェザー
フェザー
(!?まずい…、魔王様が疑い始めている…!?本来の目的が頭をかいてもらうだから、我が嬉しそうな顔をしたのに疑問を抱いてしまったのか…!?)
このままではゼロに嫌われてしまうと、フェザーは必死に言い訳をするべく思考を巡らせた。

そうしている内に、ゼロの口がゆっくりと開く。フェザーは、軽蔑的な言葉をかけられると思い、思わず目を瞑った。

しかし、今のゼロの顔は、紛れもない安心で溢れていた。
ゼロ
ゼロ
……お前なぁ。してほしいならちゃんとそう言え。子供じゃないんだから
フェザー
フェザー
…?…??
もしかして全部筒抜けだった?と思う余裕もなく、ゼロはフェザーの体に巻きついている縄を切り、そして頭をくしゃくしゃと撫でくりまわした。
フェザー
フェザー
んあっ!?
ゼロ
ゼロ
…でも、久々にお前の幼い頃の面影が戻って、何だか、…思ってもいいのかわからないが、凄く嬉しい。やはりまだ子供なのか?
フェザー
フェザー
…ま、魔王様…
まさかゼロからそんな言葉が出るとは考えておらず、フェザーも、思考を巡らせることを緊急停止せざる負えなかった。
ゼロ
ゼロ
日々成長することは大事だが、たまにはそうやって、甘えてきてくれてもいいんだぞ。俺はいつでも大歓迎だ
そう言ってゼロは、にっこりと笑ってみせた。その笑顔はまるで、あの日初めて出会った時に見た、太陽のようだとフェザーは感じた。
フェザー
フェザー
…ふん。我はそんな赤子のようなことはせん。…………絶対とは言いきれないが……
ゼロ
ゼロ
あはは、可愛い奴め
ゼロ
ゼロ
…あ、そうだフェザー。来週の土曜とか空いているか?魔デルの仕事があったら別にいいんだが
フェザー
フェザー
…あ、いや、土曜は特に何もないぞ
ゼロ
ゼロ
そうか。なら俺と一緒に、1日過ごさないか?
フェザー
フェザー
魔王様と。了解し…………………………はあぁあ!!!!?
ゼロ
ゼロ
!?え、そんなに嫌だったか!?
ゼロの提案に、フェザーは喉が壊れるほどの声の音量で反応した。なのでゼロも、断られるかと少々不安になってしまう。
フェザー
フェザー
ちがッ!嫌などでは決してない!ありえない!!
誤解を解くためにも、フェザーは喉の力を消費した。だが流石にこのままだと喉が壊れてゼロと喋ることができなくなってしまうので、次からは少量で話す。
フェザー
フェザー
…………………わ、我も………一緒に、行きたい……………………
ゼロ
ゼロ
…!?……よし、決まりだな!ありがとう。お前はもう部屋に戻れ。その使いすぎた喉を、水で癒してこい
フェザー
フェザー
…!わかったぞ我が主!
頭を撫でてもらって今後も撫でてもらえる。それに重ねて来週出かけることになったので、フェザーは今、人生の絶頂にいると感じた。

フェザーが書斎を出ると、ゼロはフェザーが反抗期ではないことに安心し、本を返そうと本棚に近づいた。
ゼロ
ゼロ
……スルーするつもりだったが、仕方がない。何をしているんだ、ユノン
ユノン
ユノン
あ、やっぱりバレてた?
ゼロ
ゼロ
今回は、お前の影の薄さに騙されなかったぞ
ゼロは当然初めからユノンの存在に気づいていたようで、今更何も驚かなかった。むしろ気づけたことに喜びを感じていた。
ゼロ
ゼロ
それで、お前も携わっていたのか?
ユノン
ユノン
僕は作戦を立てたのと、フェザーの体を縛る程度のことしかしてないぞ!
ゼロ
ゼロ
縛るな馬鹿。…まぁでも、今回の件は俺も気にしていたんだ。感謝くらいはしてやる
ユノンの作戦のお陰で、ゼロはお出かけ予定まで入れられたのだから、感謝をしなければバチが当たってしまう。
ユノン
ユノン
相変わらずの上から目線だな…。まぁ、フェザーが元気になってよかったよー
ゼロ
ゼロ
お前たち、もうそんなに仲が良くなったのか?凄いな。お前も撫でてやろうか?
ユノン
ユノン
魔王様の手デカくて怖いのでやめときまーす
ゼロ
ゼロ
この野郎
ユノンのことは少し引っかかるが、先程の出来事で、そのモヤモヤも晴れた。ゼロは満足気に、ユノンと書斎を後にしたのだった。
ゆるだら公
ゆるだら公
どうも、ゆるだら公です
ゆるだら公
ゆるだら公
突然ですが、ぼっち勇者の番外編を書きましたので、読んでいただければ幸いです。では

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