第5話

3│未だ
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2025/05/02 12:00 更新
upprn
やっぱり俺と心中してよ
その口振りは相変わらず軽いもので、



青年の命に対する考えの歪みが伝わって来た。



この人はきっと、死ぬ事を何とも思って居ないのだろう。



感覚が可笑しいのか、それとも



…もう失う物なんて無いのか
upprn
人間どうせ何時かは死ぬんだし、それが未来か今かってだけじゃん
mmntmr
…確かに
人間、何時かは死ぬ。



それが何時なのかなんて、判る訳も無いのだから、



別に何時だって良いのかもしれない。
upprn
なら、自分の思う様にさっさと死んだ方が良くない?
upprn
それに、心中したら人生の最期を独りぼっちで過ごさずに済むし
upprn
結構、良い話だと思わない?
その言葉には妙な説得力があった。



「確かにその通りかもしれないな」



そう一瞬でも考えて仕舞う程には…
mmntmr
いや初対面で心中持ち掛けて来る様な人とは死にたくないですよ
upprn
あれ
流石の私もある程度の常識は弁えている。



初対面の相手と心中、なんて死に方は洒落にならないし望む所でも無い。



今迄掻い潜ってきた修羅場と比較すればマシな死に様だが、



そこに拒否権が存在して居るのであれば話は別だ。
mmntmr
逆に何で心中してくれると思ったんですか…
upprn
おねーさんは生に執着してなさそうに見えたから
mmntmr
貴方程では無いと思いますけどね
楽観的な思考回路に思わず溜め息を吐いて、



青年としっかり目を合わせる。
mmntmr
私はずっと、生きる事に精一杯だったんですよ
mmntmr
それこそ、心中なんて考えた事も殆ど無いですし。
upprn
…へぇ
mmntmr
でも、そうですねぇ…
mmntmr
死ぬなら潔く死んでやる、とは思ってます
足掻き続けた人生だから、



死ぬ時くらいはせめて、潔く死んでやりたい。
mmntmr
…私、死んでから自分の人生を振り返った時に
mmntmr
何だかんだ悪くは無い人生だったな、って思いたいんです
mmntmr
だから未だ、駄目なんです
宗教とか神とか信仰して無いし、



転生とか来世とか信じて無い。



そうなると、たった一回きりの人生なのだから、



悔いはなるべく残したく無い。



未だ、死ねない
mmntmr
それに、見知らぬ人と死のうと思うほど精神追い詰められて無いです
upprn
…そっか
生きる意味なんて無いけれど、



死ぬ理由も無い。



なら、



死んで良いと思える迄、無様に生きたい。



そんな生き方だって、悪くは無いと思う。
upprn
じゃあ、俺が思わせるよ
mmntmr
…何を、ですか?
ネオンに照らされて薄紫に染まった青年の顔に、影が落ちる。
upprn
悪くは無い人生だった、って
upprn
この人となら死んでも良い、って
青年は悪戯っぽい表情を浮かべて



私に顔をぐっと近付けて来た。
upprn
そうしたら、俺と心中してくれる?





mmntmr
…そうですね、考えておきます
mmntmr
出来るなら、ですけどね
曖昧な返事で御茶を濁して、足早にその場を去る。



脳裏には、名も知らぬ青年に言われた



「心中」という言葉が焼き付いていた。

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