第6話

少女は狼人間_リーマス
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2025/05/02 07:55 更新
森の奥、石壁の隠れ家は、まるで世界の果てだった。   

狼人間のコミュニティ―満月の夜ごとに軋む床と、グレイバックの鋭い視線が支配する場所。
彼のうなり声が響くたび、恐怖が心を刺した。

私は魔法界からもマグルの世界からも追放された存在。満月の呪いに縛られ、獣の血が私の心を締め付けた。

ある晩、隠れ家の扉が軋み、リーマス・ルーピンが現れた。

やつれた顔、灰色の髪、疲れた目。他の狼人間とは違う彼は、静かに言った。

「君は…落ち着いているな」
その声は、満月の狂気を一瞬遠ざけた。

リーマスは私の近くにいることが増えた。グレイバックの命令で薪を集める際、彼は黙って荷物を持ち、つまずく私を支えた。

「気をつけなさい」と、短く呟くその言葉に、なぜか温もりを感じた。

彼の横顔に、心を奪われた。

胸の奥で、ほのかな恋が芽生えた。
それは、狼の血に縛られた私には許されぬ光だった。

リーマスとの時間は、闇を裂く月光のようだった。

彼は狼人間の自分を嫌いながら、静かな優しさを見せた。

ある夜、満月の前で震える私に、彼は古びたマントを置いた。

「満月は辛い。だが、朝になれば終わる」と、そっけなく言った。その言葉が、私の心に希望を刻んだ。

彼は過去を語らず、ただ、魔法界やマグルの話をした。

「どちらも欠点だらけだ。だが、守るべきものはある」と、遠い目で呟いた。

その横顔に、私は少女に戻れた気がした。

だが、リーマスの目は、時折遠くの何かを―戦場か、誰かを想う目だった。 

彼はここに長くはいられない。私はそれを知っていた。

それでも、願わずにはいられなかった。

彼の心に、私が少しでも映ることを。



ある日、グレイバックの命令で街の市場へ出かけた。薄汚れた路地裏、魔法薬の匂いが漂う雑多な場所。

そこで、リーマスを見た。彼はピンクの髪の女性と笑い合っていた。

彼女を見る彼の目は、仲間以上の柔らかさに満ちていた。

心臓が凍りついた。胸で何かが砕けた。

彼女は友人かもしれないと、儚い希望にすがった。震える足で二人を追い、路地の影に隠れた。

だが、薄暗い路地裏で、リーマスがトンクスにキスをした。

世界が色を失った。

トンクスの髪が紫に変わり、笑い声が響く。
それらは遠い幻だった。

リーマスの手が彼女の頬を撫でる。その優しさは、私にマントをくれた手と同じだった。

いや、私がそう信じていただけだ。

満月の夜が近く、狼の血が理性を侵食した。

トンクスへの憎しみ。自分への怒り。

獣の咆哮が喉で響いた。

我を忘れ、トンクスに襲いかかろうとした。

爪が伸び、視界が赤く染まる。

「リーマスを…返して!」 叫び声は獣のうなり声と混じった。

だが、リーマスの強い腕に押さえ込まれた。

「やめろ!」 彼の声は冷たく、優しさはなかった。

トンクスが杖を構え、赤い髪をなびかせた。「リーマス、危険よ」と、冷静に言った。

リーマスの目には、冷たい光しかなかった。
私を「脅威」と見る目。

ああ、狼人間ではなく、普通の人間として彼に出会いたかった。

満月の呪いを知らず、彼の隣で笑いたかった。

涙が頬を伝った。

それでも、私は彼を愛していた。
たとえ、彼の心が彼女にしか向かなくても。

最後の力で、闇の魔術を放とうと手を伸ばした。

「リーマス…!」 彼の名前を叫んだ。

だが、リーマスとトンクスの魔法の光が私の胸を貫いた。

眩しい閃光。冷たい痛み。闇。

体が石畳に崩れた。

トンクスの声が響いた。「…終わったわ」

リーマスの声は聞こえなかった。

最後に見たのは、満月だった。

その光は、私の愛を、憎しみを、すべて飲み込んだ。

きっと、私の頬には涙が流れていた。

心で呟いた。

「別の人生で、ただの私で笑えたら」

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