第10話

ブランデー_シリウス
82
2025/05/06 04:37 更新
暖炉の火がパチパチと鳴るリビング。古びた革のソファに、私とシリウスは並んで座っていた。久しぶりに二人きり。シリウスの手には琥珀色のブランデーグラスがあって、彼の長い指がグラスを軽く叩くたびに、チリンチリンと小さな音が響く。その音が、私の心をそわそわさせる。

「あなた、最近どうだ?」 シリウスがポツリと言ったけど、すぐにハリーの話に切り替わった。ハリーのクィディッチの活躍とか、スネイプの嫌がらせとか…私のことなんて、まるで目に入ってないみたい。

「ねえ、シリウス…私といるのに、どうして、いつもハリーのことばかりなの?」 少しだけ強気に言ったつもりだったけど、声が少し震えた。情けない。いつもこうだ。強がってても、心のどこかでビクビクしてる自分がいる。シリウスに嫌われたらどうしよう、なんて。

シリウスはグラスを傾けて、チラッと私を見た。彼の灰色の目が、まるで夜の霧みたいに深くて、私の心を掴んで離さない。「ハリーはジェームズの生き写しだ。それに、私はハリーの父親代わり、私がハリーを可愛がって何が悪い?」 彼の声は低くて、ちょっと挑戦的。まるで私が子供のわがままを言ってるみたいに聞こえる。

胸がズキンと痛んだ。シリウスは、いつもこう。ジェームズがどう、ハリーがどう。学校のことだって、「ハリーの試合はどうだった?それと、ハリーはスニベルスにいじめられてないか?アイツ、相変わらず陰気な嫌がらせが得意だからな」なんて、シリウスの声に軽い皮肉が混じる。私を見てよ、シリウス。ずっと、ずっと思ってたのに。強気な顔をしてても、心の中はグラグラしてる。

「そうだ!…昨日ね?私の誕生日だったんだよ?」 やっと言えた。心臓がドキドキして、喉が詰まりそう。シリウスに「大人」として見てほしい。でも、こんな大事なこと言う時だって、声が小さくなっちゃう。

シリウスはグラスを置いて、フンと鼻で笑った。「あなたの誕生日か…一つ歳をとったくらいで、そう変わらないさ」 その言葉が、胸にグサッと刺さった。彼はブランデーをもう一口飲んで、『日刊預言者新聞』を広げ始めた。私、なんだか空気みたい。暖炉の火が赤く揺れる中、シリウスの横顔は彫刻みたいに美しくて、私の心が締め付けられる。

どうして? 子供なんて、いつか大人になるのに。シリウスは私をいつも子供扱い。誕生日を迎えても、シリウスには届かない。「ねえ、シリウス?私、本気で…シリウスが好きなんだよ」 声が掠れた。こんなこと、初めて言った。でも、涙が滲みそうで、弱い自分がバレそうだった。

シリウスは新聞から目を離さずに「君はハリーと同じで子供だ。私と釣り合うなんて、遠い未来の話さ」 その言葉が、胸を抉った。

悔しくて、熱いものがこみ上げてくる。「なら、私、大人のパブで働くよ!そしたら、すぐにでもシリウスの『大人』の仲間入りできるね!」 私の精一杯の強がりだった。あの薄暗いパブで、シリウスが妖艶な女の人たちとグラスを傾けながら笑い合ってるのを見て、私の心はズキズキ痛んだ。嫉妬で胸が焼けるように熱かった。あの時、泣かなかったけど、心はズタズタだった。

シリウスはグラスを握ったまま、ゆっくり私を見た。彼の目が一瞬、鋭く光った。「…冗談だろ?」 低く響く声に、背筋がゾクッとした。「あんな場所、君に務まるわけがない。君は私と大人しくソファでミルクでも飲んでるのがお似合いだ」

ミルク!? 赤ちゃん扱いもいいところだ。私は頭にカッと血が上った。「もういい!シリウスなんて大っ嫌い!…私、今から、あのお店に行く!シリウスなんかじゃなくて、優しい大人の男の人を引っ掛けて、遊んでやる!!」 強気な言葉を吐きながら、心の奥では怖かった。シリウスが本気で離れちゃったらどうしよう…あぁ、言わなきゃよかったってそう思ってる自分がいた。

シリウスの顔が急に真顔になった。次の瞬間、彼は立ち上がって、私の腕を掴んできた。「なんてことを言うんだ!君を守るのが、私の…大人の責任だ!」 彼の声は低く、震えてた。シリウスの指が私の腕に食い込む。痛い。でも、彼の目に、怒りと…何か、失うのを恐れるような影がちらついた。その影に、私の心がなぜか締め付けられた。私のこと…もしかして、気にしてくれているの?

「…だって!シリウスはいつもそう!子供と大人って切り分けて、私をちゃんと見てくれない!私は、もう十分大人だよ!シリウスなんかに守られなくてもいい!」 強気に叫んだけど、涙が溢れそうだった。こんなこと言う、弱い自分が嫌い。シリウスには負けたくないのに、心はぐちゃぐちゃだった。

あなたが叫び終わった後、シリウスの顔が急に近づいた。息が止まった。次の瞬間、彼の唇が私の唇を塞いだ。ブランデーの苦い香りと、シリウスの熱い息が混ざり合って、頭がクラクラする。初めてのキスの味が、まるで魔法みたいに全身を駆け抜けた。シリウスの手が私の腰を強く引き寄せる。彼の指が背中に食い込むたび、心臓が爆発しそうだった。舌が絡み合って、意識が溶けそうになる。何秒か、何分か、わからないまま、私はシリウスのキスに溺れてた。

シリウスが唇を離した。彼の息が荒い。「いい加減にしろ!あんな世界はこんなもんじゃない!もっと怖い目に遭うかもしれないんだぞ!」 彼の目は怒ってるのに、どこか…私を失うのを恐れてるみたいだった。初めて見た、シリウスのそんな顔。

怒られて、涙がポロポロ溢れた。「でも、でも…私、シリウスが好きなんだもん…」 強気な仮面が崩れて、子供みたいに駄々をこねる自分。情けない。心がめちゃくちゃだ。

シリウスはハッとした顔で私を見て、そっと抱き寄せた。「…わかっているよ。あなた…私は君をちゃんと見ている。…すまなかった。いつもハリーの話ばかりで、君の話を控えてしまっていた…」 彼の声は低く、温かかった。シリウスの手が私の髪をそっと撫でる。その指先から、初めて感じる「愛」が流れ込んでくる。強気で隠してた脆い心が、溶けていく。

涙目でシリウスを見上げた。「本当に…私のこと、好き…?」 いつもは言ってくれない言葉。強気で今まで、感情を押してきたけど、自信なんてなかった。心が震える。

シリウスは私の目をじっと見て、灰色の目が柔らかく揺れた。「ああ、あなた、君が好きだ。ずっと君に言おうと思ってた。だが、君がこんなに暴走するとはな…君が危ない目に遭わなくて、よかったよ。」 彼の唇が、初めて優しい笑みを浮かべる。シリウスの指が私の頬を撫でて、涙を拭ってくれる。その感触が、胸を温かくした。

私は笑顔でシリウスに飛びついた。
「シリウス!大好き!!」

「おっと…いきなり飛びつくな!ハハッ!」 シリウスは少しよろけながらも、笑って、私をぎゅっと抱きしめた。「ああ、私もだよ。もうあんなこと言わずに、私の隣にいてくれ。約束だ、あなた」

「うん!約束!」 私は少し考え、私を見つめる、シリウスの優しい目にドキッとした。

でも…もう一度だけ、彼の温かさに触れたくなった。
「ねえ、シリウス…もう一回だけ、キスをして?」 私は精一杯の上目遣いでお願いをした。

強気な自分と、甘える自分が混ざり合ってる。シリウスなら、どっちの私も受け止めてくれるって、思えた。

「全く、どこで覚えたんだ…いいだろう。」
シリウスはそう言って、さっきとは違う、優しくて深いキスをしてくれた。暖炉の火が揺れる中、私たちは笑い合った。強気で隠してた脆い心が、シリウスの隣でやっと「大人」になれた気がした。

プリ小説オーディオドラマ