第2話

婚約破棄の予定でした
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2026/03/02 08:41 更新
 悪役令嬢、レティシア・アルヴェール。



 第一王子の婚約者。

 そして、物語では“嫉妬に狂い破滅する女”。

(大丈夫。シナリオ通りなら、今日婚約破棄されて終わり)

 国外追放で済むなら安いもの。
 処刑よりずっといい。

 そう思っていたのに――

「……誰が、婚約を破棄すると言った?」

 静まり返った広間に、低い声が響いた。

 第一王子、エドワルド殿下。

 彼はまっすぐ私を見ていた。
 冷たいはずの青い瞳が、なぜか揺れている。




「殿下? ですが、彼女は聖女様をいじめ――」

「証拠は?」

 場が凍る。

 



 ……違う。
 こんな展開、ゲームにはなかった。

 私は一歩前に出る。





「殿下。私は構いません」

 本当は少しだけ、胸が痛い。
 でもそれで丸く収まるなら。


「私との婚約は、国益に――」



「レティシア」

 遮られた。

 名前を呼ばれた。
 公の場で、優しく。

「君は、何を一人で背負う気だ」

 ざわめきが広がる。




 やめて。
 そんな台詞、言わないで。

 私が悪者になれば終わる話なのに。

 そのとき――

「兄上。彼女を追い詰めるのはやめていただけますか?」

 柔らかな声。

 第二王子、ルシアン殿下。

 彼は微笑んでいる。
 いつも通り、穏やかに。

 けれどその瞳だけが、笑っていなかった。

「レティシア嬢は、誰よりもこの国のために動いていた。私は知っていますよ」

 ……どうして?

 誰にも気づかれないように動いていたはずなのに。

 視線が絡む。

 彼だけは知っている。

 私が裏で聖女の暴走を止め、財政の穴を埋め、密かに貧民街へ資金を流していたことを。

「どうして、頼らないんですか」



 小さく。私にだけ聞こえる声。

 胸がきしむ。





「私は、悪役令嬢ですから」



 それが一番、丸く収まる。

 ルシアン殿下の微笑みが、ほんの少しだけ崩れた。




「……あなたは、強すぎる」




 そのとき、大広間の扉が勢いよく開く。


「レティシア!」

 

 隣国の王太子、カイル殿下。



「君を罪に問うなど、我が国が黙っていない」


 待って。話が大きい。

 ざわめきは混乱へ変わる。






 私の“断罪イベント”は、完全に崩壊していた。







 ――おかしい。

 どうして全員、私を庇うの。

 私はただ、静かに退場するはずだったのに。


 エドワルド殿下が、私の前に立つ。




「婚約は破棄しない」

 


 はっきりと告げる。






「むしろ正式に、王太子妃として発表する」

 会場がどよめく。



 違う。
 そんな未来は知らない。

 視界が揺れた。

 緊張が解けたせいか、足元がふらつく。

 倒れる、と思った瞬間。

 ――支えられた。

 腕。

 温かい。

 ルシアン殿下だった。

「……だから言ったでしょう」

 耳元で、囁く。

「あなたは、全部一人で抱え込む」

 その声は優しいのに。

 どこか、壊れそうだった。

「次は、私を選んでください」

 その言葉に、胸が強く脈打つ。

 選ぶ?

 私は、誰も選ばない。
 選べない。

 だって私は――悪役令嬢だから。



 そう思いながら私は意識を手放した。



 彼の指先が、わずかに震えていたことに。
 このときの私は、気づかなかった。

 それが、
 世界が壊れかける始まりだとも知らずに。

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