護衛の声が聞こえた頃には既に───敵兵が、アランの背後から切りかかろうとしていた。
護衛もロイも反射的に駆け出した。だが間に合わない。
最悪の光景を覚悟し、私は思わず目を閉じた──その瞬間だった。
凛とした女性の声が響いた。
アランの悲鳴も聞こえず、恐る恐る目を開く。
敵兵は、アランの首元で剣を止めたまま、納得いかなそうな表情を浮かべていた。
有無を言わさぬ声音だった。
二度目の命令に、敵兵たちは渋々アランから距離を取る。
倒れた兵士たちの間を縫うように後退し、廊下の中央にぽっかりと空間が生まれる。
その場に残されたのは、アランたちと敵の隊長だけだった。
女はゆっくりと歩き出す。
一歩。
また一歩。
その瞬間、アランの目が鋭く細められた。
低く冷たい声。
それでも女は止まらない。
黒目の下の泣きぼくろ。
そして、歩くたび耳元で揺れる星型の黒曜石のピアス。
どこかで、見覚えがある気がした。
─────そうだ。
電車の中で、目の前の席に座っていた女性だ。
アランとの距離があと数歩まで縮まった、その時だった。ぽろり、と女の瞳から涙が零れ落ちた。
掠れた声が響く。
その言葉に、その場の空気が凍り付く。
アランですら僅かに警戒を強める。
問いかけにも答えず、女は震える唇を噛み締める。
そして────突然、駆け出した。
けれど、女は剣を抜かなかった。
ただ真っ直ぐ、泣きながら、アランへ向かって飛び込んだ。
動揺を隠しきれないロイの声に、咄嗟に口を開く。
自分でも驚くほど強い声が出た。
全員の視線が私へ向く。
それでも、止まらなかった。
電車で見た女性は確か、スマホ画面を見ながら堪えきれずに口元が緩んでいた。
気になって上から画面を盗み見たら───そうだ、その画面の中にはアランが映っていたんだ。
恋愛シミュレーションゲームでにやけるなんて可愛い学生さんだな、なんて思った記憶が鮮明に蘇る。
私の声など聞こえていないのか、女の瞳はアランだけを映していた。
止まらぬ涙と紅潮した頬。
そのあまりにも切実な様子に、アランも女を引き剥がすことを躊躇っているようだった。
その隙を逃すまいと、女は震える声で続ける。
狂気にも似た熱を孕んだ告白だった。
アランの眉がぴくりと動いた。


















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。