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第1話

ハインリヒのサーターアンダギー
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2025/08/10 07:38 更新
午後の陽射しが差し込む部屋で、フリードリヒは久しぶりの休日を満喫していた。パイロットという職業柄、なかなか仲間たちとゆっくり過ごす時間がない。今日はグスタフとエルベも揃って、三人でのんびりと過ごす予定だった。

「今日はライブもないし、久しぶりにゆっくりできるな」エルベが大きく伸びをしながら言った。屈強な体格の歌手らしく、その動作一つ一つに迫力がある。

「俺も今度のサバゲーの装備を整理したいと思ってたんだ」グスタフが装備の入ったバッグを眺めながら呟く。「でも今日はそれも忘れて、のんびりしよう」

その時、玄関のチャイムが鳴った。

「誰だろう?」フリードリヒが首を傾げると、馴染みのある声が聞こえてきた。

「おーい、みんなー! 差し入れ持ってきたぞー!」

三人は顔を見合わせて笑った。その声の主は間違いなくハインリヒだった。

フリードリヒがドアを開けると、案の定、ビーチサンダルにノースリーブ、海パン姿のハインリヒが立っていた。真冬だというのに、まるで沖縄の海辺にいるかのような格好だ。

「ハインリヒ、また同じ格好で……」

「何言ってるんだ、フリードリヒ! 沖縄はまだまだ暖かいぞ」ハインリヒは豪快に笑いながら、手に持った紙袋を差し出した。「それより、これを食べてみろ!」

「何だこれは?」グスタフが興味深そうに袋を覗き込む。

「サーターアンダギーだ!」ハインリヒが誇らしげに胸を張る。「沖縄の伝統的な揚げ菓子だぞ。現地のおばあちゃんに作り方を教わったんだ」

袋の中から取り出されたのは、こんがりと黄金色に揚がった丸い菓子だった。表面はカリッとしていそうで、甘い香りが部屋中に漂う。

「へえ、これがサーターアンダギーか」エルベが感心したように言う。「聞いたことはあったが、実物を見るのは初めてだ」

「さあ、遠慮するな! まだ温かいうちに食べてくれ」ハインリヒが嬉しそうに勧める。

三人はそれぞれ一つずつ手に取った。一口かじると、外はサクサク、中はしっとりとした食感が口の中に広がった。素朴な甘さが心地よく、どこか懐かしい味がする。

「うまい!」フリードリヒが目を輝かせた。「こんな美味しいものが沖縄にあるのか」

「だろう?」ハインリヒが満足そうに微笑む。「沖縄の人たちは、大切な人に手作りのサーターアンダギーを振る舞うんだ。愛情がたっぷり込められてるんだぞ」

グスタフも頷きながら二個目に手を伸ばす。「これは確かに愛を感じる味だ。温かくて、優しい」

「歌の合間に食べたら、きっと声にも良い影響がありそうだ」エルベも嬉しそうに言った。

四人は輪になって座り、サーターアンダギーを囲みながら談笑した。ハインリヒは沖縄での生活の話を聞かせ、他の三人は各々の近況を報告した。

「こうやってみんなで集まって、美味しいものを分け合うのっていいな」フリードリヒがしみじみと言う。

「そうだな」ハインリヒも頷く。「沖縄の人たちから学んだことの一つは、『おすそ分け』の心だ。良いものがあったら、みんなで分け合う。そうすることで、幸せも倍になるんだ」

「ハインリヒらしい考えだ」グスタフが笑う。「お前がいつも明るいのは、そういう心があるからなんだな」

陽が傾き始める頃、袋の中のサーターアンダギーはすっかり空になっていた。四人の心も、温かい友情で満たされていた。

「ところで、今日は泊まっていってもいいか?」ハインリヒが、ぽんと床に座りながら言った。「せっかくだし、もっと話したいしな」

「もちろんだよ」フリードリヒが笑顔で答える。「布団もあるし、今夜はゆっくりしていけ」

「じゃあ、夜は沖縄の話の続きを聞かせてくれよ」グスタフが嬉しそうに言う。

「それに、エルベの歌も聴きたいな。夜の部ってことで」ハインリヒがビール片手に言う。

「任せろ。サーターアンダギーの力で、声も絶好調だ」エルベが冗談めかして答えた。

四人はそのまま夜へと語り合いを続けた。笑い声と思い出が部屋に満ちていく。沖縄の風が、どこか遠くからそっと吹き込んでくるような気がした。

この夜のことも、サーターアンダギーの甘い味とともに、きっとずっと心に残り続けるだろう。

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